3・レイ 令息の思惑
顔まで真っ赤にして挨拶をするルミエーラ・カーヴェルと名乗った少女。
緊張しているのか、口が上手く回っていない様子だ。
……うん? ルミエーラ・カーヴェル?
カーヴェル……カーヴェルか……
「詮索するようで悪いけど、もしかして君はゼルガリア地方で有名な商家のカーヴェル家の者かい?」
「は、はい! 我が家のことをご存知なのですか?」
「いや、ご存知ってほどじゃないけど、当主自ら自社船舶を使って難航路へ果敢なチャレンジをするその勇気は、才覚商魂共に当代随一と聞き及んでいるよ」
「あ、ありがとうございます!」
それにしても、まさか本当にカーヴェル家の人間とは。
「つかぬことを聞くけど良いかな?」
「はい、何なりとお聞き下さい」
「あはは、そんな緊張しなくても大丈夫だよ。ただちょっと気になったんだけど、カーヴェル家のお嬢さんともなればわざわざ出稼ぎ、しかも侍女のような真似をする必要も無いと思うんだけど、どうしてここを選んだんだい?」
私の質問に、ルミエーラの喉が動いた。よほど緊張しているのだろうか、唾を飲み込んだ音さえも聞こえてきそうな勢いだ。
何かを企んでいる上での緊張か?
だが、カーヴェル商会はすでに確固たる地位を築いている。ルーデリアの家から追放された私など、今のカーヴェル家にとっては利用価値などそう多くは無いだろう。
なら、何が目的だ? 私に近付く理由は? まさか……
いや、そんなはずはない。まだ、誰にも――
巡らせた想像に、思わず自嘲気味に微笑んでいた。
それをどう捕らえたのか分からないが、ルミエーラはガチガチに緊張しその背後ではホルストが落ち着かなげにソワソワとしていた。
そんな二人の様子に、また口角が緩む。
「レイ様のお側でお仕えしたいだけなんです!」
私の笑みがそうさせてしまったのだろう、それは、実に真摯で必死さが伝わってくる声音。
些か腑に落ちない点はある。だけど、うん――
「良いよ、わざわざここまで来てくれたんだから君を雇うよ」
「あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛あぁぁぁぁ……」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
うん、実に対照的な反応をする二人だった。
彼女がどれほど出来るか分からないけど……
「ホルスト」
「……はい」
「えらく暗い顔出しているところ悪いけど、ルミエーラの教育と仕事の割り振りはお前に任せる。で、ルミエーラだが――」
ルミエーラを見ると何故か顎が外れそうな雰囲気でホルストを見つめ、いや、睨め付けていた。
「ルミエーラ」
「あぁ……あ……」
「ルミエーラ?」
「あ……ホ……」
「誰がアホですか、失礼な」
「違う! お、お前……じゃ無くて、貴方、ホルストでしたの!?」
ルミエーラの素っ頓狂な声が屋敷にこだましたのであった。






