冬の花火
冬であるのにここ最近打ち上げ花火の音がする。近くにもう民家はなく大学の研究所と私の家しかない。少し前までは他にもちらほらと家があったが駅や町などからも遠くいかんせん田舎なのでみな不便で引っ越してしまったのだろう。
窓を開けると今夜も花火が上がっていた。理由は分からないが研究所から上がっているので実験の一環として上がっているのだろう。花火は豪華にも赤、白、黄色様々な色をした物が上がっていた。
私は部屋に戻り折り畳みの椅子とつまみとビールを持ち、厚手のガウンを寒くないように羽織った。そして、椅子にどっかりと座りビールを飲み始めた。
「冬の花火も粋な物だな」
と研究所の人々に感謝しながらビールを飲む、最高の瞬間であった。
大学では博士とその学生たちがせっせと花火を上げる作業をしていた。誰かがくしゃみをするとつられて他の学生もくしゃみをした、鼻から出た鼻水が顔をつたい地面に落ちた。大学は山の上に建てられているのでは尋常ではない寒さなのだ。プルプルと手を震わせながら作業する学生と博士は恨めしそうに男の家を見ていた。
「博士、またあの男椅子に座ってビールを飲んで楽しんでいます。やはりやり方を変えた方がいいのでは?」
「いや、今までもこの方法で住民たちを花火の音で追い出してきたのだ。今更変えるわけにもいくまい、花火ももうかなりの数を買ってしまったからな」
大学が夜中に花火を上げているのは別に実験の為ではなく、研究所を広げたいからだ。しかし、大ぴらに住民達に出ていってほしいという事も出来ずに夜中に花火を上げて騒音で出て行ってもらおうと考えたのだ。
実際それはほとんど成功した。あの男の家以外はすぐに引っ越してしまった。一家だけ、あの男の家だけ引っ越さないで、あまつさえありがたがっているのだ。彼らの目論見は完全に外れてしまった。