~選ばれし英雄(?)~⑥
「いいか――自慢じゃないが、俺はこのヴォーティガン随一の力持ちだと自負している……例えば、ここに置かれている甲冑の石像――」
屈強な戦士は、この部屋の端に台座されている石像に向かって歩き出し、ペタペタと触り始める――そして石像の下部分をハグするかのように両腕で抱きしめた。
「う…うおぉおおーー!!」
戦士は叫ぶと同時に、体全体に力を込めると――石像が見事に宙に浮く。 石像はパラス石という素材で出来ており、甲冑を模したこの石像は約2Mほどの大きさであり、少なく見積もっても最低『200kg』はある。
それを、国家一の力自慢と自称する屈強な戦士は持ち上げたのだ。
(す、すごい……! 村の先生が言っていた『最強の剣士』ってのは、多分この人だ……!)
石像を持ち上げる屈強な肉体を持つ戦士を目の当たりにした蒼髪の少年ロットは、目を丸くしながら確信していた――彼こそが王国最強の剣士だと。
そして屈強な戦士は、腕が疲れたのか石像を元のあった場所へとゆっくり丁寧に戻す――そして、この部屋の中心に置かれている異様なオーラを放つ『巨大な剣』へと近づく。
「はぁ…、はぁ。 さ、さっきの俺の力自慢を見てもらえただろうか――その上で、確認してもらいたい」
そう告げると屈強な戦士は、台座の真ん中に突き刺さっている『巨大な剣』の柄を両手で握りしめて、思いっきり歯を食いしばっていた。
「ふ、ふんぬぉおおおおおおおおおーーーー!!」
明らかにさっきの叫び声より声を荒げている屈強な戦士――しかし、先程の石像ようには上手くいかず、『巨大な剣』はビクともしていなかった。
(え、え…? なんで、抜けないんだ……? もしかして、演技…?)
そう思った蒼髪の少年ロットは、屈強な戦士の顔を見ると、彼が決して手を抜いている訳ではないと判断できた――なぜなら、屈強な戦士は顎が突き出すほど力を入れていてまるでゴリラのような顔をしていたからだ。(あれが演技なら大したものである)
推定200kgの石像を持ち上げられる人物が、あの突き刺さっている剣を抜けないのが不思議に感じたロットは、あの剣は『埋まっている』のではないかと推測して、台座を注意深く見る――すると剣の切っ先は、明らかに剣の幅より大きい割れ目に挟まっているだけであり、なぜ抜けないのか謎が深まるだけだった。
「――と、まぁ、このように……どんだけ力持ちの輩が挑もうと、剣は抜けないようになっている――『英雄』に選ばれた唯一人を除いては、な」
それを聞いたロットは、ますます疑念を抱く――あんな剛力な人物ですら抜けない剣を、『英雄』ならば抜ける……? では、『英雄』とは一体何を基準として選定しているのだろうか。
少なくとも力だけでは判断基準にならないと理解できた集団――彼らは、もしかしら自分こそは……と、息巻いて次々に剣を抜こうとする――。




