~選ばれし英雄(?)~⑤
「あぁっ!? なんや、われぇ……! 喧嘩売ってんのか、あぁん!?」
モルドの発言を聞いた周りの連中達が、眉根を寄せながらモルドを睨んでいた。 大の大人たちに囲まれているというのに、モルドは慌てた素振りを見せない。
「ふん……、事実を言ったまでだ」
悪びれる様子もなく平然としているモルドに、周りの連中達はさらに怒りを露わにしてモルドの胸ぐらを掴んでいた。
「よぉ……! どこの坊ちゃんか知らねぇけど、あんま舐めってっと痛い目に合わせるぞ…?」
胸ぐらを掴んだ大人は、そのまま自身の力を誇示するかのようにモルドの体を宙に浮かせた――大人の腕力に為す術もないモルドは、首を絞められ苦しそうにしていた。
それを見た少年ロットは止めようとするが、激昂している大人に関わるのが怖くてただ震えることしかできなかった――。
「注ーーーーーーー目っ!!!!!!」
喧騒しているこの場より、遥かに大きな声がビリビリと辺りに響き渡り、誰しもが声の発言者である巨躯な男性の方へと視線を向けていた――視線の先には、2M近くあると思われる身長、巨大な岩石をイメージさせる屈強な肉体。
明らかにそれは――『戦士の証』だった。
「『英雄』の選定で、はしゃぐ気持ちは分からんでもないが、勝手な行動は許されない――どんな理由があってもだ」
そんな屈強な戦士の言葉により、喧嘩になりそうだった場は静かに収まり、胸ぐらを掴んでいた大人は「チッ」と舌打ちしてモルド達から離れていった。
そして屈強な戦士は言葉を続ける――。
「では、今から『英雄』の選定をする――そのために諸君らを王宮へと案内するっ!」
ビシッと行進を始める戦士――彼の言葉を聞いた参加者達はざわめき始めた。 それもそのはず――王宮に入いれるのは、『王族』でしか認められていないからだ。
そんな所に、一般市民である自分たちが足を踏み入れることに躊躇していた――一人を除いては。
「ふん……。 そんなんだから、貴様らは『英雄』にふさわしくないと言ってるんだ」
赤髪の少年モルドは、先程の事態をまるで気にも止めず、不遜な態度で平然と行進していた――その様子を見た周りの人達もモルドに張り合うかのように、屈強な戦士の後を付いていく――。
王宮はこの<ヴォーティガン>に住んでいれば、どこからでも見える場所に存在しており、なにより巨大な建造物として、知らない人などいない。
その王宮の入口ですら広大で、ロットが住んでいる家とは比べ物にならないほど巨大な造りをしていた――。
(す、すごい…! ここ全てが、『巨人族』のために造られているかのようだ……!)
この場所に自身と同じ人間が住んでいるとは思えないほど、広大で豪華だった――煌びやかなで街の昼よりも眩しい灯り、階段の手すり、窓、壁などには、見るものを虜にする美しい装飾がされていた。
そして、屈強な戦士の後に付いて行ってから10分後。
「よし、ようやく着いたな」
戦士が停止した場所は、巨大なホールで何もない空間――と思われていたが、真ん中に位置する『一つの剣』から放たれる異様な空気に、集団は息を呑んでいた――。




