~英雄の覚醒~⑮
「ハムートよ……!! 我らは負けたのだ……大人しく撤退するぞ!」
タウロスが『黒龍』を宥めようとするが、駄々をこねる子供のように『黒龍』は唸りを上げる――。
「ガァアアアア!!!!」
そして納得のいかない『黒龍』は、空中を乱暴に飛び回り、俺たちを焼き殺そうと『漆黒の炎』を繰り出してきた――俺はとっさの出来事に油断しており、盾を構える余裕すらなかった。
『死』――脳裏にその言葉が浮かび上がる。
「グ、ァアアアア……!!!!」
俺たちは死んだ――そう思ったが、体が焼かれる痛みは何故かない。 不思議に感じて、閉じた瞼を開くと目の前には、タウロス・デュークホーンが俺たちを庇っていた。
「な、んで……?」
俺たちは敵同士で、救う理由などどこにもないはずだ――。
「スマ、ンな……約束を破ってしまった」
一騎打ちで俺たちが勝った場合は、魔物を撤退させる――それがタウロスとの約束だった。 その約束を守るために、俺たちを庇ったというのか……?
「英雄ロット……。 恥を忍んで頼みがある……ワシの左腕を斬ってくれ!!」
タウロスの左腕は、俺たちを庇うために『黒龍』が吐いた漆黒の炎が纏わりついていた――やはり、村を焼き尽くしていた炎と同様に消すことはできないのか……?
「で、でも……」
「頼む……!! あの『黒龍』はワシが責任をもつ――だから斬ってくれ」
俺がタウロスの左腕を斬るのを躊躇っていると、奴は懇願してくる――『黒龍』を相手するために、今は『命』を失うわけにはいかない、と。
「う、ぉおおおおおお……!!!」
タウロスとの決闘で体は軋むが、今は泣き言を言ってられない――腕を失う『覚悟』をしてタウロスは俺たちを救ってくれたのだ。
俺が今動かずにどうする――!!
タウロスの角を折ろうとした時に使った俺の技――二刀流の剣技で斬りかかる。
右と左に持っている剣の柄を逆さに持ち、地を蹴ってジャンプする――重力を利用した上からの右の剣。 そして振り上げる力を利用した左の剣の挟み撃ち――。
「グ、ウゥオ……!!」
ブシャァ! と血飛沫が辺りに飛び散り、見事にタウロスの左腕を切断することに成功する――地に落ちた左腕は漆黒の炎に焼き尽くされ、やがて炭となった。
「スマ、ンな……手間を取らせた――あとは任しておけ」
左腕は切断され、右腕一本でどうやって『黒龍』と渡り合うのか不思議に感じていたら、タウロスは右手で槍を拾い上げ――それを『投擲』する。
「グガ、ァアア……!?」
タウロスの圧倒的なパワーで投げられた槍は、物凄いスピードで一直線に『黒龍』の翼に突き刺さる――すると飛べなくなった『黒龍』は地に落ちてしまった。
翼に刺さった槍をタウロスは引き抜くと、『黒龍』の喉元を握る。 すると、「グゲェ!」という鶏の呻き声に似た声を発していた。
圧倒的な力量差に『黒龍』が少し可哀そうだった――。
「コイツはしっかり躾ておく――また今度、会う機会があればもう一度『決闘』しよう」
不敵に笑うタウロス――俺は二度と戦いたくないという思いでニヒルの笑みを浮かべる。
「あぁ……そういえば、ワシは右腕一本でハムートの首を締めあげるのに忙しい――なので、そこにある槍はくれてやろう」
先程までタウロスが使っていた『槍』を見る――そしてタウロスは言葉を続ける。
「それは遥か昔、聖霊が造り出した『聖遺物』――『ロンギヌスの槍』と呼ばれている」




