~英雄の覚醒~⑫
「ふむ、ここでいいか……」
先行するタウロスが、足を止めてそう告げる――辺りを見渡すと、木々に囲まれていて、戦う場所に相応しいとは到底、思えない――。
「――少し待っておれ」
タウロスはそう言うと、先程俺に繰り出した突進を再び行い、ブルドーザーのように、あっという間に周りの木々を倒して、決闘場を作りだしていた。
「ふむ、こんなもんか」
森林を一瞬で更地のようにしたタウロスは満足げに微笑む――俺は今からこんな奴と戦わなければいかないのか……!
「それじゃあ、始めようか……! ハムートよ!」
「なっ!?」
一騎打ちという約束だったのに、タウロスはハムートという『黒龍』を呼び出したので、俺は切迫の度を高める――最悪の場合、ニーナにも戦ってもらうしかない……!
「安心せい――ワシは約束を破らん」
そう言うと、ハムートという『黒龍』は、足で掴んでいた巨大な物を地面に落とすと、この場から離れていった。
ズシン! という音とともに、地面に何かが突き刺さる――それは巨大な『槍』だった。
「ダッハッハ!! さっきはワシの自慢の角が防がれた――ならば、三本ならどうだ……!?」
タウロスは地面に突き刺さっている槍を引き抜くと、そのまま俺に向かって突進してくる――さっきの奴の二本の角でさえギリギリ耐えたというのに、まだ隠し玉があったとは……!
俺は奴の突進をわざわざ受け止める必要はないと判断し、横に転がり回避しようとする――すると、タウロスは持っていた槍を、俺に照準を合わせて突いてくる――!!
「う、ぉおおお!!」
槍が俺の体に突き刺さるまえに、俺は帯剣していた二本の剣を抜いて、槍の軌道をズラすために受け流す――。
ギャリ、ギャリ!! という鉄と鉄が削れあう音が響き渡り、俺はなんとか槍の軌道をズラすことで危機を乗り越えた。
「――まさか、ワシの攻撃が二度も防がれるとは……!」
タウロスは目を丸くして俺をじっと見つめる――俺はこの好機を逃さない……!
奴は突進した直後、数秒のインターバルがある。 そして俺は、奴の攻撃を受け流したため、奴の懐にいる――この隙に攻める……!!
右手に持っている剣を逆さに持ち、奴の角めがけて、右の剣戟と左の挟み撃ちによる技により角を断裂させる――!!
ガギィンン!!
金属音が辺りに響き渡り、火花が散る――しかし、奴の角は折れていなかった。
「う、ぐぅ……!!」
むしろ逆に、奴の硬度な角に押し負けて、俺の手がビリビリと衝撃を受けていた――手の痺れにより、剣を持つことができない。
「――チェックメイトだ」
タウロスはそう告げて、再び槍で俺を貫こうとする――。




