~英雄の覚醒~⑩
「待て――待てだぞ、ハムートよ……!!」
ズシン、ズシンという音を立てて、こちらにやってくる巨躯なる魔物――頭には二本の大きな角が生えており、牛の外見でありながら二足歩行している。
あれは――『ミノタウロス』か……!
「ほほう……! お前が、魔王様が言っていた『英雄ロット』という奴か?」
種族ミノタウロス――獰猛な性格で理性を失い、言語を発することはできないのだが、目の前にいるミノタウロスは難なくと言葉を話していた。
「……ああ、そうだ。 俺がロットだ! 周りの市民達は関係ない、俺と一騎打ちをしろ!!」
怯える女性を庇いながら、上で飛んでいる禍々しい『黒龍』と知性のある『ミノタウロス』を相手するのは難しい――そう判断した俺は、どうにかして一騎打ちの戦いに持ち込みたいのだが。
「ふむ……。 そうするに値する人間か見極めてやろう!」
そう告げると、ミノタウロスは顔が地面につきそうなほど前傾姿勢をとり、何度か右足で地面を蹴ると、両足を交互に前に踏み出し、加速しながら突進をしてくる――!!
「なっ……!?」
敵の先制攻撃に不意を突かれた俺は、帯剣していた二つの剣を取り出し、クロスの形を作って敵の攻撃を受け止めようとする。
「ニーナ……!!」
「うん、任せて!」
俺の後ろにいた怯えた女性たちを、ミノタウロスの突進から避けるため、ニーナに避難させてもらう――ニーナが素早く行動してくれたおかげで、奴の突進してくる直線上には俺一人のみ。
後は、俺が奴の攻撃を防ぐだけだ――!
「ぐっ、ぉおおおお!!」
奴の巨大な角と俺の構えた剣が接触すると、奴の巨体な重量が剣を伝って俺の全身の骨が軋む――耐えるのに精一杯なのに、奴はお構いなしに歩を進めて、俺を轢き殺そうとしてくる。
「止ま、れぇええええ!!」
奴が押し込もうとしている先には『壁』があり、俺が力負けすると奴の『角』と後ろにある『壁』に圧し潰されてしまう。
それを阻止しようと、踏ん張っている俺の足が、さらに深く地面に突き刺さる――。
スガガガガッ! という、地面をえぐる音が辺りに響き渡り、土煙が視界を遮る――そして煙が晴れると、前方には突進していたミノタウロスの足が止まっていた。
「ダッハッハッハ!! まさか、俺様の突進を止められる人間がこの世にいたとは……!!」
ミノタウロスは忌々しいまでに顔を笑いの形に歪めて、俺を称賛してくる――それはありがたいのだが、こっちはさっきの攻防で疲弊しているのに、奴は息一つ乱れていないので嫌気がさす。
「我が名はタウロス・デュークホーン――魔王軍『幹部』であり、貴様と正々堂々と一騎打ちをすることをここに誓おうではないか!!」




