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アーサー王と11人の子供たち  作者: 尾十神誠
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~選ばれし英雄(?)~④


 二人が村の集落を離れてしばらく森の中を歩くと、巨大な門が行く手を阻んでいた――。


 それを確認したモルドは、にっと口角を吊り上げて笑った。 そして、「すぅ」と大きく息を吸った後。


「我々は『モルド・アッカーマン』、『ロット』である!! 王宮の命により、王都への通行許可を願いたい!!」


 モルドは怖気づくことなく、ハキハキと喋り、門の番人に開門をさせようとする――モルドの大きな声に反応した兵士は、巨大な門の上で見張りをしており、双眼鏡でこちらの様子を伺っていた。


「王宮の命だと――? それは、どういった要件だ!?」


 一度の会話でスムーズにいかなかったことで、億劫になったモルドは「チッ」と舌打ちして、兵士の質問に答える。


「我々は15歳以上だ――『英雄』の選定に参加しにきた」


 その証拠として、先生から受け取った『王宮からの令状』をバッと見開いて、見張りの兵士に確認させる。 それを見た兵士は、息をハッと呑み事態の深刻さを理解していた――のだが、なかなか開門してくれない。


 それを不思議に思ったモルドは、再び声を張り上げる――。


「おい、どうした――!? 早く開門してくれないか!?」


「あ、いや、失礼……貴殿が『英雄』の選定に来たのは理解したが、隣の小さいのはなんだ……?」


(小さいの……?)


 モルドの隣には一つ年下のロットがいて、彼は自身とあまり身長差が変わらず、少なくとも160cmを有しているはずだが――そう思いながらモルドは首を右に向けると、ギョッとした。


 なぜなら、ロットは直立ではなく膝立ちしており、脱いだ靴を膝の部分に置くことで、遠くからだと小さい子供のように見えるよう小細工していたからだ――しかもロットは、より子供っぽさを演出するよう人差し指を口に咥えていた。


(この野郎……!!)


 モルドは、ロットの頭を思いっきり掴んで、ミシミシと指を強く食い込ませる。 すると、ロットはあまりの痛さに直立すると、見張りの門番が「開門ー!」と言って、ワイヤーのような物を上から下へ引っ張るとそれに反比例するかのように、、巨大な門がどんどん上へと開かれていく――。


「おい……、次また反抗的な態度をとったら、貴様の頭は三角になると思え……!」


 篝火を強く焚き、轟々と怒りを燃え盛らせているモルドは、眉根を寄せてロットを睨むと、彼は残像が見えるほど首を上下に動かして、涙目で頷いていた。


「ふん……。 ともあれ、ようやく王都へ到着だ」


 開かれた門の先には、これまでロット達がいた世界と別次元な程、光景が変わっていた――見渡す限りに大勢の人たち、賑やかな屋台店、豪華な建物――。


 先程まで陰鬱だった蒼髪の少年ロットでさえも、眼前の光景に目を奪われて意気揚々としていた。


「うわぁ~~!! 王都ってすごいなぁ……!」


 蒼髪の少年ロットは、自身が住んでいる区域とはまったく異なる王都の風景に目を惹かれていた――見たことのない豪華な食べ物、お洒落で気品を感じさせる優雅な服、広大で頑強なレンガで造られている建物――そのどれもがロットにとっては新鮮な物だった。


「ふん……。 懐かしいな――」


 一方、赤髪の少年モルドは、ロットとは正反対で、深刻な顔で沈んだ表情を浮かべていた――「懐かしい」、その単語を聞き取ったロットはふと不思議に思う。


(……そういえば、僕らが住んでいる区域では、モルドだけが名を2つ持っているのはどうしてだろう……? 貴族となんか関係あるのかな?)


 この国<ヴォーティガン>では、『貴族』以上の身分である者には《名前》と《家系を表す証》となる名を所有することが多い。


 モルドが王都にやってきても、あまり驚かないのは『元貴族』だからなのだろうか――ならば、なぜ王都より貧しい庶民が暮らす村へとやってきたのだろうか――?


 いろいろ疑問が湧いてくる――モルドは、出生や生い立ちのことを村の皆にさえ一切喋らず、謎に包まれていた。 


(村の皆にも話さないんだから、僕なんかが聞いても答えてくれない…よね)


 気にはなるが、聞いてはいけないような感じがして、結局はいつも通りに口を閉ざしてしまう蒼髪の少年ロット。


「こっちをジロジロ見るな……気色悪い」


 ロットのオドオドした視線に気付いたモルドは、不愉快極まりないといった感じで、苛立たしげに歩く速度を上げていた。


 モルドを極力怒らせたくないロットは、彼のあとを黙ってついて行く他なかった。 楽しげな街の様子とは正反対に、2人の雰囲気は最悪だった――。


 そんな地獄のような時間が20分ぐらい経過した後――他のどの場所よりも、一際人の集まりが目立っている集団に到着した。


「ここで一体、なにが――?」


 大人や子供まで大勢の人たちがいるこの場所で、何の祭り事が行われているのか気になったロットは、つい疑問が口から溢れてしまう。


「ふん、阿呆め……。 俺たちの目的を忘れたのか?」


(えっ……? てことは、ここに居る全員が『英雄』の選定に参加するってこと――!?)


 軽く見積もっても1000人はいるであろう大人数にロットは驚く――しかも、明らかに30歳を超えている大人までいることに驚愕していた。


「ふん、馬鹿が。 条件に『15歳以上』とは言っていたが、大人は選定できないとは一言も言われてないぞ。 ――ざっと辺りを見渡すと、どうやら40歳以下までの男性が王宮からの招集を受けた、と見るべきだな」


 モルドは、我こそが『英雄』である、と血気盛んである集団を目の当たりにしながらも、平然として周りの状況を分析している。


「す、すごいね……。 こんなに、人が大勢いるのに平然としていられるなんて……」


「ふん、当たり前だ。 何人居ようと関係ない――俺が『英雄』に選ばれるのだからな」


 自信家のモルドが放った何気ないその一言により――さっきまで騒然としていた場は静寂に包まれていた――。



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