~英雄の覚醒~④
「ま、おう……?」
あの身体中に女性用の下着を巻き付けて、自分のことを予言者と言っていた変態が『魔王』……? 僕は驚きの連続で、口が開きっぱなしだった。
「ハハ! 君が驚くのは当たり前だ――なんせ君と僕が出会ったのは、僕の『食後』だったからね。 君の目には僕は変態に映っていただろう」
「食後……?」
そう告げると、『魔王』はにっと不吉な笑みをひけらかす。
「あの時、僕が身に着けていた物は、食糧への感謝の『証』――君ら人間も、食後に祈りを捧げる者もいるだろう? それと同じさ」
「……?」
「まだ分からないのか? 僕は、身に着けていた下着の分だけ、女性を『食べた』ということさ――」
「うっ……!」
その言葉を聞いた瞬間、猛烈な吐き気が腹部から這い上がってくる――喉から込み上げてくるものを必死に押さえこむ。
ニーナも魔王の言葉を聞くと、ドン引きしていた――そりゃあそうだ……結局、こいつは『変態』だ。
「ふふ、いいね……!」
僕らが彼の異常性を受け入れず、眉根を寄せて睨んでいると、魔王はさらに不敵に笑う――。
「ネタバラシはまだある――僕がなぜ、モルド君に『反乱』をさせたと思う?」
「それ、は――」
僕は言葉に詰まる――モルドが武器を強奪したり、密輸していたのは『反乱』を起こすために必要だったから――けど何の『目的』があったのか分からない。
そして、それを利用しようとする魔王の考えなど、僕が分かるわけがない。
「モルド君は『復讐』に囚われていたからね――それをちょっと刺激するだけで、簡単に操れたよ……そして、僕の狙いは、『魔物』がこのヴォーティガンに侵入できるようにすることさ」
「――えっ?」
その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった――。
「このヴォーティガンは名だたる魔導士が、魔物が侵入できないよう結界を張ってるからね――その魔導士たちが邪魔だったから、内部にいる人間――モルド君を利用したってわけさ」
待って……、待ってくれ。
「ああ、そうそう。 それと、モルド君が君――ロットの顔をしているのは、君と同じく変身薬をあげたからさ。 英雄ロットと同じ顔になれば、『伝説の剣』に選ばれると言ったら、二つ返事で彼は薬を飲んでくれたよ――その結果が『暴走』って、滑稽だろ?」
「やめろ……、やめてくれ……!」
モルドは怒りと恥ずかしさが入り混じったなんとも悲惨な声で叫ぶが、ロットの耳には届かない――彼は一刻も早く、村の方へと行かなければと使命を感じていた。
「待ってくれ、ロット……! 俺を『殺して』くれ……!」
魔物の侵入を防ぐために、村へ急ぎ足で向かおうとすると、嗚咽を漏らすような声でモルドが必死に『殺してくれ』と叫んでいたので、足を止める。
「モルド――君は、騙されていただけだ。 死ぬ必要なんかないよ……」
僕はそう告げて、再び村へ向かおうとする――だが。
「――俺が『伝説の剣』を持っているんだ!!」
それを聞いた僕は、足を止めるしかなかった。




