~英雄の贖罪~⑭
黒の鎧が『人間』ではない――それならば、全てのつじつまがあう。
顎を左拳で振りぬいたのに、脳震盪が起こらず、怯む様子もない――そして、『人間』が聞いたら必ず『気絶』するマンドラゴラの悲鳴をものともしなかった。
奴は人間の形をした『鎧の化物』なのか――?
それならば、どう対処すればいいか思案していると――。
「――お兄ちゃん、5分稼いで!」
ニーナが僕にそう告げる――すると彼女は呪文を唱え始める。
「……分かった! 全力で守る!」
ニーナがこれから何をするのか分からない、それが『黒の鎧』に通用するかも分からない――けど、ニーナが僕に『5分』という時間を稼いでと言った……ならば、僕はそれを全力で守り通すだけだ!
「――来いっ!」
無防備なニーナを守るため、『黒の鎧』の意識を僕に向けさせるために、近接格闘術で敵の剣を受け流しながら、僅かに敵の身体をずらしていき、『黒の鎧』の視線にニーナが入らないようにする。
ガギィン、ガキン!
剣と剣の衝突により火花が散り、金属音が辺りに響く――奴は疲労を見せず、次々と鋭い剣戟を繰り出してくる。
まるで100M走を全力で走ったあとに、また全力で100M走を走らされている感覚だった――一瞬でも気を抜くと、殺られる――!!
(我慢……我慢だ……!)
目の前にいる者を躊躇なく斬りかかる『黒の鎧』から、ニーナを守るために時間を稼ぐ――。
「お兄ちゃん、離れて……!!」
その言葉を聞いた僕は、奴の剣戟を受け流すのを止めて、地面を転がり『黒の鎧』から距離をとる――すると、ニーナが叫ぶ――。
「ユキちゃん、お願いっ!!」
すると、先程ニーナが描いていた魔法陣から、可愛らしい巨大な雪だるまが顕現し、口から吹雪を吐いていた――それを避ける間もなく、直接喰らった『黒の鎧』は足元から凍っていく――!!
「ニーナ、すごい……!!」
一足先に、雪だるまの吹雪を避けた僕は、ニーナの元へと駆け寄り、彼女の頭を撫でながら褒める。
「えへへ……」
彼女は猫耳が垂れるぐらい気持ちよさそうに笑っていて、可愛らしかった――しかし、ニーナの実力は本当に底がしれない……。
彼女こそ本当の『英雄』に相応しいのではないか、と感じてしまう――。
(……いや、僕は何を弱気になっているんだ!)
僕が『英雄』に相応しくないのなら、これから頑張ればいい――それだけのことだ。
(とにかく、それよりも――)
確認するべきことがある――そう思った僕は、氷漬けにされて一歩も動けない『黒の鎧』に近づく。 そして、『奴』の正体を知るために、兜を取り外す――。
すると、そこに居たのは。
「――――『僕』?」
蒼い髪で碧眼のその顔は、『伝説の剣』を抜き、『英雄』として選ばれた『ロット』そのものだった――。




