~英雄の贖罪~⑨
「どうしたのですか、モルド……? 顔色が真っ青ですわよ……?」
「…………」
お姫様は『僕』に話しかけてくる――だが、『僕』は口を開くことができなかった。
モルドとお姫様が姉弟だったことにもビックリだが、僕の顔が『ロット』ではなく、『モルド』になっていることに驚きを隠せない……。
「――やはり、クルーサー家を憎んでいますか……?」
答えることができない――なぜなら『僕』は、『モルド』ではないのだから。
「……今更許して欲しいとは言いません。 ですが、『あの時』から――いえ、今も私の『祖父』は誰かに操られている……そんな気がするのです」
お姫様の祖父が誰かに操られている……? そんなことがありえるのだろうか? 僕は目を丸くして驚いてしまう。
「……突拍子もないことを言い出してすみません――ですが、どうか信じてほしいのです。 あの日、あなたを王都から『追放』し、救った私のことを――。 そしてあのような悲劇が繰り返されないように、私に力を貸してほしいのです」
お姫様は自身の非力さを恥じるように、目元に涙を浮かべながら『僕』に協力をして欲しいとお祈りする――『僕』はお姫様の苦しむ顔が見たくない……だから、何か声をかけようと口を開くが、今の『僕』にはどうすることもできない。
なぜなら、頼られたのは『英雄ロット』ではなく、『モルド・アッカーマン』なのだから――。
「…………」
「急にこんな話をされても、困りますよね……」
僕の沈黙が拒絶からだと判断したのか、気を落とすお姫様。 互いに黙り、気まずい静寂の時間が流れる――。
「今回の王都強奪事件の首謀者が、あなただとは思いたくありません――ですが、上からの命令とはいえ、武器を強奪したという事実は変わりません……。 なので、罪を償ってもらうため、もうしばらくここに閉じ込めさせてもらいます」
そう言い残すと、お姫様は悲しそうな顔を浮かべながら、降りてきた階段を再び上っていき、姿を消してしまった――。
「……親分、姉弟いたんすか……?」
僕――いや、『モルド』に話しかけるエレイン姫が居なくなったのを確認すると、隣にいる囚人は、僕に訊いてくるが、分かるはずがない。 彼とは同じ村で育ったが、生い立ちなど一切聞かされていない。
「――まさか、親分……。 姉すらも殺すつもりで、明日の『反乱』を決行するつもりなんですか……?」
はっ? 『反乱』……? 『明日』?
改めて知らされた新事実に僕の頭の中が真っ白になった――。




