~英雄の贖罪~③
「ひぃいいい~~!!」
スライムの攻防を防ぐ特訓が始まってから、今回で約82着の服が溶かされていた――女性の服ならばいざ知らず、男性である僕の服が溶けて誰が得するのだろうか……。
「お、お兄ちゃんっ! 大丈夫!?」
スライムのせいで、僕は生まれたての状態にされたことをシクシク嘆いていると、僕の妹――否、半年前のフリーク・カンパニーの事件解決後に仲間になった元奴隷の『人獣の女の子』が僕の心配してくれた。
「ニーナ……ありがとう」
ちなみに『ニーナ』というのはこの子の名前で、奴隷の時『217番』と首輪に記されていたので僕が『ニーナ』と名付けた(彼女はすごい喜んでくれた)。
ニーナは僕の服が度々溶けてなくなるので、サポートとして僕の服を幾つも『作っている』のだ――そう彼女の『能力』で。
彼女は『人獣』なので、『魔物』と仲良くなる性質を持っており、それを使役――または『召喚』することができるのである(実はいうと、僕が相手している『服』を溶かすスライムもニーナが召喚した……)。
今は『マンドレイク』という植物系の魔物も召喚しており、草木を操作して『服』作りに貢献しているのだった――。
「ニーナ!! そんな貧弱な小僧に、服など必要ない! 猿と同じ扱いでいいんじゃ!」
ベドウィルさんは、ちっとも成長しない僕にそう告げた――何? 僕は人語も話せず、赤い尻を丸出しの動物と同じなのか?
視界が赤く染まったような気がした――。
「こっちだって、逃げ出したい厳しい修行から耐えて頑張っているのに、そんな言い草ないでしょ……!!」
僕はそう言い残して、王宮の修練場から出ようとする――。
「おい、どこにいくっ!?」
そう聞かれたが、僕はどうやら『猿』なので人語が分かりません――彼の言葉を無視して、僕はさっさと外に出た。
**********
「はぁ………………」
やってしまった……ついカッとなってしまったとはいえ、せっかく稽古をつけてくれている師匠から逃げ出したことを僕は悔やんでいた。
今は気分転換に、王都の活気ある商店街を歩いているのだが、全然気晴らしにならない――人間とは不思議なもので、ニーナと楽しくこの商店街を歩いている時は、店頭に置いてある食べ物が美味しそうに見えて、ついつい買い食いとかしていたのだが、今は食べる気すら起きなかった……。
「はぁ……………………」
臆病な性格のせいで、人との争いをできるだけ避けてきた僕は、どうやってベドウィルさんと仲直りすればいいのか分からず、深いため息をついた――すると。
「いてっ……!」
落ち込んで下ばっかり見ていたせいで、向かいから来る人とぶつかってしまった。
「す、すいません……!」
僕は慌てて謝ると、ぶつかった衝撃でその人が所有していたであろう白い『ハンカチ』が地面に落ちたので、急いで拾った。
「あ、あの、ハンカチ落ちましたよ」
拾った『ハンカチ』を手渡すと、その人は、にっと白い歯を覗かせて笑った――。
「あぁ、ありがとう――でも、それ『ハンカチ』じゃないよ」
そう言われて、僕は手に取った物を改めて見直すと――それは紛れもなく、女性用の下着である白い『パンティー』だった。
はっ??




