~英雄の自覚~⑰
「ほう……そんな大金、お若いのにさすがですな」
ボスと呼ばれた男は、僕の格好を見て怪訝そうな顔をする――庶民の服装をしているのに、『1億』を持っているのが不思議なのだろう。
「まぁ、いいでしょう――『1億』との取引きで、その『人獣』の首輪や足枷など外してそちらに引き渡しましょう」
1億という大金の取引きに、彼はにっと白い歯を覗かせて笑った――あまりにもあっけない商談だったが、欲望の塊である彼らに『お金』という武器は効果的だったらしい。
「取引成立ですね――じゃあ、この娘の枷を外してください」
1億の札束をバックパックから取り出し、広間の中央に置いてある机上に積み重ねる。 すると、フリーク・カンパニーの部下達が鍵を使用して、人獣の女の子の枷を次々と外してくれた――。
「これで約束は果たしましたな――」
「ええ、ありがとうございます」
そう言って、『人獣の女の子』を引き連れてこの場を立ち去ろうとすると――フリーク・カンパニーのボスが「パチン」と指で合図を送っていた。
「これは一体、どういうことですか……?」
「お客様には、『1億』と引き換えにその『化物』を引き渡しました――なので『再び』奪い去ろうと思った次第です」
僕たちの周りには、いつの間にかフリーク・カンパニーの部下達が大勢集まっており、この部屋から出ることを拒まれていた。
「や、やり方が汚いぞ……!?」
「すいませんね……、その『人獣の女』はマニアックな野郎たちに大変人気でして――これからも稼いでもらいたいんですよ?」
本当に『お金』の為なら、何でもする――こういった裏の連中たちの恐ろしさを垣間見た僕は、怒りを通り越して戦慄してしまう――。
「――おい、貴様ら……。 どれだけ人をコケにすれば、気が済むんだ?」
しかし、ベドウィルさんは僕と違っていた――こんな危機的状況に陥っているのに、篝火を強く焚き、轟々と怒りを燃え盛らせていた。




