~英雄の自覚~⑮
「――ここが奴らの拠点だ」
王宮から2時間ほど歩いて、ようやく『フリーク・カンパニー』の商社へと辿り着いた――ここは、王都の端にあたる位置であり、人通りが少なく、辺りは暗闇に包まれていた。
現在の時刻は深夜の2時頃――。
「……この時間にいますかね?」
人獣の女の子の首輪について『交渉』をしに来たのに、肝心の魔法をかけた犯人が居なければ、元も子もない。
「大丈夫だ――『奴』はいる」
「どうして分かるんですか……?」
僕の質問に即答したベドウィルさんに理由を求めると、僕の背中の方へ指差した――正確には『人獣の女の子』を、だ。
「先程まで首を締めつけられて苦しんでいたが、今はどうだ――? 顔色が大分良くなっているだろ?」
ベドウィルさんに指摘されてようやく気付いた――彼女をおんぶするのに必死で気づかなかったが、今は静かに寝息を立てて安らかにしている。
「――おそらく『奴』がかけた魔法は、対象物が自身から遠く逃げられないよう施したものだ……今はその効果が薄れているということは、ここに『奴』がいる」
そう確信しているベドウィルさんは、眉根を寄せて『フリーク・カンパニー』の外装を睨んでいた――僕も同じく視界が赤く染まったような気すらした。
まるで『奴』の、奴隷には『自由』はないと言い切っている感じが物凄く腹が立つ――。
「――早く行きましょう」
「ああ、そうだな」
僕たちは『フリーク・カンパニー』の正面入口から堂々と入ろうとする――すると。
「おいおいおいおい! オメェら、怪しいやつだな!! こんな時間にウチに何の用だぁ!?」
入口で見張りの役割をしている不良のような輩が、僕たちの行く手を塞いでくる――腕には竜の刺青が彫られており、顔には幾つもの切り傷があった。
「僕たちは、決して怪しい者じゃありません――お話があって参りました」
「はなしぃ?」
竜の刺青をしている男は、怪訝そうな顔をするが、僕がおんぶしている『人獣の女の子』を見ると、態度が急変して満足げに微笑む。
「そいつぁ『ボス』の――なるほど! そういう事なら、オメェらの入場を許可するぜ!」
何を勘違いしたのか、竜の刺青をしている男は僕たちを『ボス』の元へと案内してくれた――。




