~英雄の自覚~⑫
「ふぁああ……、僕も眠たくなってきたな」
人獣の女の子の気持ちよさそうな寝顔を見ていると、それにつられて僕自身の身体も、疲れを取りたいという欲求に襲われる。
おやすみ――そう言おうとして目蓋を閉じようとしたら、人獣の女の子の表情が険しくなり、先程まで安らかだった寝息が乱れ始めている。
(えっ…!? 急にどうしたんだ……!?)
目の前の理解不能な状況を目の当たりにした僕は、目を大きく見開き、何が原因なのか模索するが全く見当がつかない――。
「だ、大丈夫……!? 呼吸はできる!?」
僕は彼女に問いかけるが、声が届いてないのか嗚咽を漏らしながら苦しそうにしていた――た、助けなきゃっ……!!
そう思った僕は、彼女を横にして抱き上げてから部屋を出る――。
「だ、誰か……!! 医者を呼んでください……!!」
今はもう深夜で辺りはもう暗くなっている――廊下はシンと静まっており、僕の声に返答はなかった。
(ど、どうすれば……!?)
廊下に出て助けを求めようと、首を左右に振って辺りを見渡すが、誰一人居なかった――。
「――何事だ?」
否。 一人だけ居た――忍者のように天井から舞い降りてきて、年寄りの執事ベドウィルさんが僕の前へと現れた。
「あ、あの……! この娘の容態が……!!」
「……貴様、この少女を裸に剥いて、何をしていた……?」
まるでゴミクズを見るかのように、怪訝な顔をするベドウィルさん――僕はすっかり、忘れていた。 この娘が、服を脱いだままの状態だったことを……!
「こ、これはこの娘が勝手に……! てか、それよりも、この娘を治してあげてください!」
誤解が解けたかは分からないが、ベドウィルさんは仕方ない、と言った表情を浮かべて、人獣の女の子の様子を診てくれた。
「――ふむ。 この奴隷の証である首輪が、収縮して首をしめつけているようだな……見てみろ、赤い痕ができている」
ベドウィルさんに言われて、人獣の女の子の首筋を見ると赤くなっていた――ベドウィルさんの冷静な対応に比べて、慌てることしかできなかった僕は、自分自身が情けなかった……。
「……小僧、この娘を横にして廊下に置け」
「は、はい…!」
何か考えがあるのか、ベドウィルさんは僕に指示を出したあと、右手を背中へと伸ばし、執事服の中から『何か』を引っ張り出す――。
すると、そこには一つの『剣』があった。




