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アーサー王と11人の子供たち  作者: 尾十神誠
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~選ばれし英雄(?)~

「皆さん、『魔王』という存在を知っていますか?」


 草木が生い茂り、涼しい風が吹いて木の葉がなびいている大木の下で、一人の大人の女性が教科書を持ちながら喋っていた。


 その女性の前には、大勢の子供たちが扇状に体育座りしており、女性が話す言葉に耳を傾けていた。


「はい、はーい! おれ、知ってるよ! マオウってのは、巨大な角が二本生えてて、ビームとか出すヤバいやつでしょ!?」


 何度も手を上げ下げしながら、元気よく挙手している少年が『魔王』について語ると、周りに座っている子供たちが彼の言葉にどよめき始める――。


「はい、静かに!」


 パン、パン! という手を叩く音に、子供たちは開いていた口を閉じて、大人の女性の方へと視線を向ける。


「いいですか。 詳しくない情報を周りに伝えるとそれが悪い噂となって、皆の不安が募るばかりで悪影響を及ぼします――以後、気をつけなさい」


 彼女の真剣な顔、怒気を含んだ声に、自分が軽率で周りを怖がらせてしまったことを反省した少年は、小さな声で「はーい…」と言いながら地面に腰を下ろす。


「よろしい」


 その様子を見た大人の女性は頷き、「んっ!」と咳き込んで話を続ける――。


「いいですか。 『魔王』というものは、長年に渡り魔物たちを支配する王のことです。 言い伝えでは『魔王』は1000年もの間、時を過ごしていると言われています」


 その話を聞いたさっきの子供は、「やべー、マオウって超おじいちゃんじゃん!」など、論点とは違う部分の感想を抱いていた。


 そんな中、一人の赤い髪をした少年が手を挙げた。


「先生――1つ聞きたいことがあります」


「はい、なんでしょう」


『先生』と呼ばれた大人の女性から、質問の許可を得た赤髪の少年は言葉を続ける――。


「『魔王』はまだ、生きているのでしょうか?」


 その質問に、周りの子供たちは口を閉じていた――『先生』と呼ばれている大人の女性すらも。


「……言い伝えでは、『魔王』は今もどこかに『封印』されている――と伝えられています」


 この言葉を聞いた子供たちは、再び騒ぎ始める――「ってことは、マオウは今もどこかにいるってこと…!?」、「こわいよー!」、「私たち一体、どうなるの…?」――『未知』という『恐怖』に支配された子供たちはパニックになり、泣いたり叫んでいた。


「はい、静かに!!」


 再び、パンっと手を叩いた先生は、子供たちを安心させるために、表情を緩めて柔和な目で子供たち一人一人に視線を合わせる。


「――安心してください。 『魔王』は今もなお息を潜めているかもしれません。 しかし、この国『ヴォーティガン』には、魔物が侵入できないよう名だたる魔道士が結界を張っています。 そして、王国には『最強の剣士』が王に仕えていますので、もしあなたたちが危険にさらわれたら、きっと助けてくれるでしょう――それに」


 一拍おいて溜める先生の語りに、子供たちは息を飲んで言葉の続きに耳を傾ける。


「『魔王』が目覚めた際には『英雄』が選ばれる――という言い伝えがあります」


 英雄という単語を聞いた子供たちは、「かっけー!」、「俺にもなれるかな!?」、「マオウはおれがやっつける!」などなど、願望という名の希望を抱いていた。


「残念ですが、『英雄』に選ばれるためには条件があります――それは先生の話を黙って聞けるいい子だけです」


 その条件を聞いた子供たちは、はしゃぐのを止めてピシッと肩に力を入れながら、先生の話を黙って聞きます、という態度を示していた――。


「まぁ、それは冗談ですが」


 なんだよー、と騙された子供たちは一気に気を緩めて、弛緩した空気が流れ始める。


「『英雄』に選ばれる条件として、『15歳』以上――という決まりがあります。 この区域のなかでは――『モルド・アッカーマン』、『ロット』の2人だけですね」


『モルド・アッカーマン』と呼ばれた少年は、先程の『魔王』が今現在も生きているのか質問をした知的で目がキリッとした赤い髪の色をした少年だった。


『ロット』と呼ばれた少年は、モルドとは正反対な印象で、授業中一切発言せず皆の視線や注目の的となるのが苦手で、臆病な性格の蒼い髪をした少年だった。


 この時のロットは、自分が『英雄』に選ばれるはずもないと自負しており、ただただ青い空に流れる雲のゆっくりした動きを眺めていた――。

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