~英雄の自覚~⑪
「ところで、英雄さん。 あなた、この娘と一緒に寝るつもりですか……?」
お姫様の怒気を含んだ声音にビックリした僕は、目元から涙が引っ込んだ感じがした――そうだった……! 小さな娘とはいえ、男女が一つの部屋で寝るのは非常識だった……!
「そ、それは……! 姫様がよければ、ぜひ姫様の部屋で寝てもらおうと思ってました……!」
人獣の女の子を匿っている事を姫様に露呈した僕は、無理に僕の部屋で寝かせる理由はないと判断して、姫様からの了承を得ようとしていた――しかし。
「イヤダ……!」
当の本人である人獣の女の子が、僕の足にしがみついたまま離れようとせず、僕の部屋から出ることを否定する。
(えー!? ど、どうしよう……!?)
拒絶された姫様は、笑みを浮かべている表情だが、どことなく寒気を感じさせるほど怒りを燃え盛らせているような気がした――。
「おモテになるのですね――英雄さん」
「ひぃ……!」
姫様の冷水を浴びせるような声に呼ばれた僕は、恐怖のあまり消え入りそうな声で返事をする。
「アナタの事を信用してします――なので、分かりますね?」
「御意に!!」
お姫様の迫力に圧倒されて、思わず今まで使ったことのない言葉で、彼女を裏切るような事は一切しないと、片膝を地面につけて態度で示した――女性、怖い……。
別にやましい気持ちがあったから、彼女を救ったわけではないのに、こんなに釘を刺されたら逆に意識してしまう――まぁ、でも僕は襲う勇気もないから大丈夫!
そう思って僕は油断していた――この後起こる事態を。
**********
姫様が自室に戻られてから、数時間が経過して夜が訪れた――1日中動きっぱなしだった僕は、眠気に襲われてまぶたが重たくなる。
「じゃあ……そろそろ、寝ようか」
僕の部屋には1つのベッドしかないので、必然的に同じベッドで寝るしかなかった――幸いにも、十分な大きさのベッドなので、2人分のスペースはあった。
決して僕はロリコンではないので、大丈夫――そう思っていたら。
「ゴシュジン……サマ……」
一向にベッドで寝ようとしないので不思議に感じていたら、人獣の女の子が先程、姫様に着せてもらった服を全部脱いでいて、健康な肌を露わにしていた――じゃなくて!
「なんで、全裸になってんの……!?」
自分は襲う立場ではなく、襲われる側の立場だったのかと驚愕したが、その考えは違うと理解した――なぜなら、人獣の女の子は震えていたからだ。
「マエの……ゴシュジン…サマが……」
彼女の声はどんどん尻すぼみになっていく――僕は馬鹿だ……。 彼女を救った気でいたが、彼女にとっての『人間』は恐ろしい存在だと認識しているのだ。
彼女の心はまだ蝕まれたままだ――。
「――大丈夫。 僕は、服を脱げだなんて命令しない。 君を傷つけたりしない……だから――恐がらなくていいよ」
僕の本心が伝わるよう、ゆっくり丁寧に、彼女の蒼い瞳を見ながら話した――。
見つめ合う、数秒間の静寂。
人獣の女の子は、僕の言葉を信じてくれたのか目元に涙を浮かべながら、僕へと飛びついてきた――よっぽど、恐かったのだろう……。
人間の『偽り』の表面性と、内に秘めてる『残虐性』を目の当たりにした彼女は、何を信じればいいのか分からなかったのだ。
僕は裏切らない――裏切りたくない。
そう思った僕は、彼女の猫耳の生えた頭をそっと優しく撫でた――それに甘えるように彼女は、猫のように喉をゴロゴロと鳴らして、気持ちよさそうに眠ってしまった……全裸のまま。
……僕は決して、ロリコンではない!




