~英雄の自覚~⑩
あの娘の世話を姫様にお願いした後、僕は王宮の中を探索していた――戦士を模した石像や、有名な画家が描いたであろう美しい絵画が並んでいた。 絵画には、歴代の王族の顔を飾るのが決まりなのか、エレイン姫の美しい横顔が描かれてある。
(今思えば、こんな綺麗な人と僕は普通に喋っているんだよな……)
今更、自分の処遇に違和感を覚えてしまう――そして、王宮の探索を始めてから一時間ほど経過した頃。
「ふぅ……。 そろそろ大丈夫かな」
桁外れの広さに、思わず迷子になってしまうところだったが、なんとか自分の部屋へと辿り着いた僕は、呼吸を整えて扉を開けた。
「あら、お帰りなさい」
部屋の中に入ると、目の前の光景に驚いてしまった――。
ベッドの上に姫様がいて、その膝上に人獣の女の子が座っており、大人しく姫様に髪を梳かされていた――先程までは黒ずんだ髪の色をしていたが、お湯で洗い流したことで本来の髪の色が顕になったのか、綺麗な水色のような髪をしていた。
人獣の女の子は、僕が帰ってきたのを待ちわびたかのように、トテトテと僕の方へと歩み寄ってきて足に抱きついてきた。
それが可愛らしくて、つい頭を撫でてしまう――よく見ると、彼女の服は先程までのみすぼらしい格好ではなく、純白で綺麗に仕立て上げられたワンピースを着用していた。
「あなた、女性の服を用意してませんでしたよ?」
代わりに私のお古を着させています、と告げた姫様――そうだった……。 彼女の身の安全を優先に考えていたから、衣類などはすっかり頭から抜けていた。
「ありがとうございます、姫様……! 何から何までお世話になりました」
「ええ、それは結構です――しかし、この娘について詳しくお話してくれませんか?」
僕の不甲斐なさを聖母のように許してくれた姫様――彼女は、人獣の女の子がどうして僕の部屋に居るのか理由を訊いてくる。
「はい、この娘は――」
奴隷である彼女は、路地裏で貴族にいじめられており、そこを偶然通りかかった僕は、彼女を見過ごすことは出来ず、王宮で匿っていることを包み隠さず姫様に伝えた――。
「――素晴らしいです。 誰にだって、真似できることではありません――あなたのような人が『英雄』に選ばれて、私は心から嬉しいです」
勝手な行動を起こして、問題を抱えてしまった僕をてっきり叱るのかと思っていたが、その逆で姫様は僕を褒め称えてくれた――。
(――あれ…? なんでだろう……、思わず涙が――)
胸から込み上げてくる『何か』を抑えつけないと、涙が溢れそうで僕は必死に我慢する――ああ、そうか……、僕はきっと。
初めて誰かに認められたから、『嬉しい』んだ――。




