~英雄の自覚~⑨
「あの……、一緒に風呂に入ってくれませんか?」
僕が姫様にそう言うと、何故か顔を真っ赤にしてゆでダコのようになっていた――なんでだろう……? あの娘の汚れている体を、同じ女性である姫様が一緒に風呂に入って、洗ってくれれば全てが解決すると思ったのだが……。
「え、えっと……? 私たちには、まだ早いと思うのですが――」
「いえ、そんなことはありません! 早ければ早いほどいいのです――ぜひお願いします!」
僕はあの娘のために、早く身体を綺麗にしてもらいたい――女の子があんな汚い格好を平然と受け入れている状況が、僕には耐えられなかった。
「――分かりました。 そこまで懇願されましたら、この私『エレイン・クルーサー』は恥を捨て、アナタの欲望のままに身を委ねましょう」
「……? はい、お願いします」
なぜだか知らないが、姫様の『覚悟』が予想以上にすごいので、その熱量に僕は圧倒されてしまう――女の子同士が風呂に入るって実は大変なことなのか……?
今だって、姫様を僕の部屋に案内しているだけなのに、姫様は顔を真っ赤にしながら、手と足の動きが一緒でギクシャクしながら僕の後についてくる――。
「えっと……、着きました」
僕の部屋の前まで案内すると、姫様は物凄い勢いで深呼吸を始める――途中、「ひっ、ひっ、ふー」というラマーズ法をしていたが気にしないようにする。
扉を開けて、部屋の隅っこで座っていた人獣の女の子の両手をギュッと掴んで、姫様の前に立たせる。
「では、この娘の体を洗ってくれますか?」
先程、姫様にお願いした内容を改めてもう一度伝える――なのに、姫様は目を丸くして僕をじっと見つめる。
「えっと……? もしかして、私と一緒に風呂に入るのは、この娘ですか……?」
それ以外、誰がいるのだろう? と思った僕は、困惑した顔で姫様の質問に頷くと、姫様は「ふぅ…」と恥ずかしさと悲しさが入り混じった何とも言えないため息を吐いていた。
「これからは、誤解が起きないよう丁寧に……! 説明をしてくださいね!」
顔を朱に染めて、ちょっと涙目になりながら僕の顔へと近づいて圧をかけてくる姫様――一体、何と誤解したんだろう……?
僕はこの時ようやく気付いた――僕は姫様に「一緒に風呂に入って欲しい」と、主語を伝えずにお願いしたのだ……だから当然、『僕』と入るものだと勘違いしていたのだ……!
(……は、恥ずかしい!)
言葉足らずで白昼堂々、セクハラのような発言をしてしまった愚かな自分が恥ずかしかった――しかし冷静に考えると、誤解とはいえ『僕』と一緒に入ることを姫様は承諾していた……。
つい姫様の体に視線を移してしまう――豊満な胸、くびれた腰、しなやかで柔らかそうな脚線美……そのどれもが露わになった姿を想像する。
(って、僕はバカか……!?)
英雄の前に、『変態』に覚醒してどうする!? ここに居てはマズイ……そう思った僕は。
「ひ、姫様……! ここに、タオルなど置いてますので、風呂上りに利用してください……! 勝手ではございますが、急用を思い出したので、後の事はよろしくお願いします!」
そう言った僕は、姫様に有無を言わさず、勢いよく自分の部屋から飛び出していった――。




