~英雄の自覚~⑤
「はぁ……どうすれば、いいんだろう……」
王国最強の剣士だったと言われる王宮の執事から、略奪事件の解決を依頼されたけれど、正直困っている――解決策の方法も浮かばなければ、『英雄』としての覚悟もまだできていない……。
僕よりもっと『英雄』に相応しい『誰か』がやるべきなんじゃないか――そんな風に考えながら、途方に暮れていた。
「よぉ、にいちゃん! おっぱいに興味あるかい?」
「はいっ?」
王都の街中をボーっとしながら歩いていたら、いきなり知らない人に突拍子なことを聞かれて、僕は思わず固まってしまう。
「男なら勿論、興味あるよな? ウチなら、お安くしとくよ~?」
「え、えっと……」
僕は辺りを見渡すと、いつの間にか王都の中心部から離れた区域へと立ち入っており、どうやらキャバクラとかいかがわしいお店が沢山並んでる場所まで来てしまったようだ。
「ぼ、僕まだ15歳なんで……」
「か~! 固い、固いっ! にいちゃん、男はみんな年の差関係なく、おっぱいに興味津々なんだから! 我慢は体に毒だよ~!?」
未成年を理由に断ろうとしたのに、グイグイ責めてくる中年の店員……正直、こういうタイプは苦手だ。
僕がいくら、『英雄』に選ばれた報酬の『3億』を持っているとしても(今は王宮に預けさせて貰っている)、こんな事でお金を使いたくない……というのが、本音だった。
「あ、あの僕、用事あるんで……」
僕はそう言って(年寄りの執事からの依頼があるので、嘘はついていない)、足早にそこから立ち去ると、最初は追いかけてきた中年の店員も諦めて、違う人に客引きをしていた。
「ふぅ……、怖かったぁ……」
気持ちを落ち着かせようと、路地裏で休もうとする僕――すると。
「――っ!!」
とんでもない光景を目の当たりにしてしまった――猫の耳や尻尾が生えている女の子……いわゆる人獣が、大の大人たちに囲まれて非道いイジメを受けていた。
人獣の女の子は両手両足を手錠で拘束されていて、為す術もないまま成人の男性に腹を蹴られたり、顔面を踏みつけられている。
「…………っ!!!!」
僕は、加害者側の大人たちに気づかれないよう身を潜めて、様子を窺う――喉から込み上げてくるものを必死で飲み込んだ。
年端もいかない女の子を平気で傷付ける大人たちと――その最低な奴らに気付かれなくて、ホッとしている『自分』にひどく嫌悪感を覚えたからだ――。




