~英雄の自覚~③
「ひ、姫さまっ!? どうしたんですか!?」
突然、お姫様が流した涙の理由が分からない僕は、慌てふためいた――何故だか分からないが、心がズキズキとして酷く痛かった。
「ご、ごめんさない……。 昔、悲しかったことを思い出してしまって……」
慌ててお姫様は自身の流した涙を拭うが、止め処もなく涙が溢れていた――それを見た僕は、衝動的に彼女を抱きしめた。
「え、英雄さん……?」
彼女は顔を真っ赤にして呆気にとられていた――僕も自身の行動に驚いていた。 彼女の為に何かしてあげたいという想いが、彼女に支配され、まるで自分が自分じゃなくなっているようだった――。
コンコン。
「お嬢様、失礼します」
扉をノックする音が聞こえると、黒色の執事服を着た年寄りの男性が入室して、驚いた表情でこちらを見ていた。
執事は僕と顔を見合わせると、見る見るうちに顔を豹変させて怒りを露わにしている――そして僕は我に返った。
僕はお姫様になんてことをしているんだっ!?
慌ててお姫様から離れて謝罪しようとするが、先程まで扉の前にいた年寄りの執事は消えており、気付いた時には、僕の首に刃物を突きつけられていた。
「おい、小僧――お嬢様にセクハラをするとは、不届き者だな……? 1ミリでも体を動かせば、あの世に送ってやるぞ?」
僕の背後から、殺意に満ちた言動で男性の声が聞こえてくる――何この人…!? ちょう怖いんですけど…!
恐怖のあまり、僕は思わずゴクリと固唾を呑んでしまう――すると。
「イッ……!?」
喉元に刃先が数ミリ沈み、首から赤い血が流れ出る。
「ベドウィル…! おやめなさい!」
「はっ、しかし……この者は姫様に無礼を――」
「いいから、やめなさい!」
お姫様は強い口調で命令したので、僕の背後に立っていた人物は、しぶしぶ僕の首から刃物を遠ざけた――てか僕の首、災難に遭いすぎじゃない……?
「ごめんなさい、私の執事が失礼を働いてしまって……」
「あ、大したケガではないので大丈夫です――こちらこそ、無礼を働いてしまってすみません……」
僕がそう言うと、互いに先程の出来事を思い出してしまったのか、頬を朱に染めてしまい、変な空気になってしまった。
「おい、小僧――その傷口を広げてやろうか……!」
「ひぃ……!!」
何なんだ、この人……! さっきから僕に対してあたりがきつくないか……?
僕はさっき『ベドウィル』と呼ばれた男性を見る――彼は先程、俊敏な動きをしたが、見た目が完全に『おじいちゃん』の部類だったので僕は困惑を隠せない。 明らかに年寄りなのに、背筋は真っ直ぐに伸びており、執事服を見事に着こなしていた。




