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7、儀式

いい朝だ。朝は苦手な方だが、今日はバッチリ目が覚めた。その時、丁度ノックの音が聞こえた。どうやら、マリーのようだ。ワゴンを押しながら私の方へ近付き、紅茶を勧めた。あまり紅茶は好きではないが、今日はちょっとだけ飲んでみよう。

鼻に通るとても華やかな香りと、花の蜜の微かな甘さと紅茶の苦さが口の中で交わる。うん、とても美味しい。ベットの上で飲むという罪深い行為も、より一層紅茶を美味しくさせる。こんなに紅茶って美味しかったんだ。


...いや、夢覚めてなくない?


呑気に紅茶とか飲んでる場合じゃなかった。確かに、寝る前「まだこの世界を楽しみたいな。」って言ったけど、夢から覚めないと焦るから!


「シノ様?どうかされましたか?」

「いいえ、なんでぃもないです。」


噛んだー!!声裏返ったし、恥ずかしい!昨日ノリで、魔王になりますとか言っちゃったし。どうすんだ私!


*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*


気が重い。いや、体が重いと言うべきか。今身につけているこのドレス。女神様のように七色に輝く布で出来ていて、歩く度キラキラと綺麗に輝く。そして、私の頭にあるティアラは大きなダイヤモンドのような宝石が散りばめられ、煌めく様子は眩しいくらい。これら全てが、鉛のように重い。


ルイスの転移魔法で、魔王城に着いたばかりなのにこの様だ。儀式というものは、魔王城で行われるらしい。


「シノ様、今夜儀式が行われるようです。」


ぼーっとしていた私に向けられたマリーの言葉に、ため息が出てしまう。というか、夜までまだ時間あるよね。今、何時くらいなんだろう。そう思い空を見上げてみる。太陽は、丁度頭の真上に来ていた。どうりでお腹が減っている訳だ。丁度いいところに、マリーがやってきた。やった、お昼ご飯だ!


「シノ様。そのお綺麗な姿を皆様に見せるため、テラスにお立ちください。」


なんだお昼ご飯じゃないのか。昼から仕事があるのか、儀式は夜だと言うのに。魔王として生きていく以上、こういう公務的なことはしていかない訳にはいかないんだろうな。もう夢覚めていいよ…。


重い足を引きずり、魔王城の三階にあるテラスへと向かう。テラスの前の扉には、レオ、ルイス、セルジオの姿があった。3人揃って、今の私の姿を絶賛した。絶賛の嵐は嬉しいが、それよりも、テラスの扉の向こうから聞こえるざわめき。それが気になって、3人の声は私の耳には届かない。私は大勢の人前に出るのは"超"苦手だ。


「...大丈夫。私がいる。」


透き通る美しい声、その声の持ち主は私の手を優しく握る。女神様だ。女神様を見ると、信じられないくらい落ち着いた。全てを包み込んでしまうような安心感が、女神様の手から私へと伝わってきた。女神パワーは末恐ろしい。落ち着きを取り戻した時には、既に扉は開かれていた。私は女神様と目を合わせた。そして、意を決してテラスへと出た。


テラスの下にいる大勢の人集りは、私と女神を見て歓声が上がる。大勢の人が上げる声は、地震と錯覚するような揺れを感じるほどのものだった。

ルイスが手を挙げると、女神は話し始めた。


「今夜、楽しみね。」


女神様の透き通る美しい声は、大勢の人がいるのにも関わらずクリアに聞こえた。きっとルイスが何かしてくれたのだろう。


「...そうですね。」


本当は楽しみなんかじゃない。不安しかないが、女神スマイルには勝てなかった。


*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*


昼の一件で、すっかり疲れてしまった。しかし、無常に時は過ぎ去る。とうとう日が落ちてしまった。


再び、私と女神様はテラスに立っている。テラスの下には、昼よりも沢山の人集りが出来ていた。緊張し過ぎて、胃がキリキリと痛む。女神様は私の方をみて、胸に手を当てた。


「シノ・ワカツキ。貴女に、私の指輪を授けます。受け取りなさい。」


女神の胸から、暖かい光が放たれる。それは徐々に強く光り、思わず目を瞑ってしまった。光が弱くなり目を開いてみると、女神の手のなかにはシルバーの指輪があった。


「右手を出して。入れあげる。」


女神様の言う通りに、右手を出す。私の親指に、ツタのような曲線が美しいシルバーの指輪が入れられた。すると指輪を付けたところから、血がドクドクと沸騰するような感覚が全身に広がる。この感覚に段々、意識が薄れていく。


魔王誕生に大勢の人が拍手を送るなか、私は倒れた。

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