私たち用語の基礎知識/騎乗位でイこう
普通のことをわざわざエロく言い換える謎文化をもつ私たちの女子校では、自転車通学を【騎乗位】という。
電車通学は【カーセックス】で、徒歩だと【足コキ】となる。
私は騎乗位派だ。
雨や強風の日にはカーセックスもするが、天気のいい日、さわやかな風を受けながらの騎乗位はやはり気持ちがいい。
一日頑張ろうという気になる。
騎乗位派は愛車を男子になぞらえた言い方を好む。
学年やグループによって細かい差違はあるが、【彼氏】がやはり一番使われる。
駐輪場に自転車を取りにいくことを、
「彼氏を呼んでくる」
と言ったりする訳だ。
「今の彼氏すごいおっさんで、ちょっときばって腰ふるとすぐ中折れするんだよね」
と騎乗位派の生徒が言ったら、
「今の自転車はもう長く乗っているので、ちょっと強くペダルをこぐとすぐ不具合が出ます」
この他愛着の度合いなどによって、【恋人】【婚約者】【夫】なども用いられる。
ちなみにカーセックス派はいつも乗る電車のことを彼氏という。
両派の間では時々不毛なやり取りが繰り広げられることになる。
「こっちの彼氏の方がスタミナあるもん」
「何十人もいっぺんに抱え込むような彼氏のどこがいいのよ」
「器が大きいと言ってよ。いつだって私を優しくつつみこんでくれるわ」
「所詮金でつながった関係でしょうが」
「そっちこそ、あの彼氏にいくら貢いでるのよ」
整備や修理全般を【ヌク】と言ったりする。
「彼氏が最近かなりたまってる(ガタがきている)みたいなんで、そろそろヌイてあげないと駄目かな」
「あー、うちは兄貴がそういうの得意で、私の彼氏もいつもヌイてもらってる」
「いいなー、私のも頼めない?」
専業の自転車屋さんを【ソープ】と呼んで、
「夫をソープにやってヌイてもらってる」
のように言う場合もあるが、さすがに本校と何の関係もない部外者を巻き込む用法なので、あまり使わない方がいいとされている。
二昔ほど前にはサドルをストレートに男性のアレになぞらえる言い回しもあったそうだ。
あんまり生々しいからか、次第に使われなくなったという。
「彼氏のぺニスが固くって、股間が痛い」
なんて表現は、さしもの本校女子たちもはばかったということだろう。
それでいて、タイヤの空気が抜けているのを指す【フニャチン】などは健在で、
「彼氏がフニャチン気味だったから、手コキで勃たせといた(手動式の空気入れで空気を入れておいた)」
のように普通に言うのだが。
何事にも思いがけない効能というのはあるもので、本校生徒の自転車マナーは近隣他校に比べて格段に良いと言われる。
自転車を擬人化して彼氏扱いしているうち、自然それなりのモラルを心がけるようになるということかもしれない。
自転車スマホなど、うちの生徒にはほとんど見られない。
「彼氏の上で腰ふりながらスマホいじるなんてありえないでしょ」
という訳だ。
自転車がらみの事故はもう何十年も出していないという。
新聞の地方欄で取り上げられたこともあったらしい。
なぜ本校生徒には安全運転が厳守されているのかと記者に問われて、ある生徒は、
「やっぱり愛じゃないですか」
と答えたそうだ。
「あ、新しい彼氏?」
「うん、昨日筆下ろししたばっかり」
「前の彼氏、結構年いってたもんね」
「それなりに愛してはいたんだけどね、そこそこ貢いだし。でもまあ、いくら媚薬飲ませてやっても、愛撫してやってもすぐへたれるからさー。さすがにもう乗り換え時かなって」
「やっぱり若い子はいい?」
「んー、まだ前カレのこと体が覚えてるもんで、ちょっと変な感じだけど、まぁまぁかな」
「でも最近寝盗られ多いみたいだから、気をつけた方がいいよ。若いとやっぱり狙われるでしょ」
「大丈夫、首輪も新調したから。あと鎖も」