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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
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8

 

「リヒャルゴから報告を受けました。アダマンタイトで武器を作ってくれるそうですね?」


 人魚達の料理を一通り堪能した後に女王が話し掛けてきた。


「はい。リヒャルゴさんからシーサーペントの事を伺い、私めもその素材が必要ですので、ご提案させて頂きました」


「そうですね…… 昔のように人間達と頻繁に出会う事も無くなりましたし、今よりも確実にシーサーペントを倒せるのなら、討伐隊の分だけで良いのでお願い致します」


「はい。承りました」


 女王からの許しを得たので、食事を済ませると直ぐに作業を行う。アダマンタイトで作る武器は、海中で使うのだから槍が良いだろう。槍頭は刃状にして、穂先は出来るだけ細くした。普通の金属なら衝撃で壊れてしまうが、アダマンタイトの強度なら十分に耐えられる。

 柄の長さは四メートル程、石突きも含め、総アダマンタイト製だ。余計な装飾や模様はつけずに、シンプルに仕上げていく。


 こうして作成した魔動カセットコンロとアダマンタイトの槍を女王に確認してもらい、報酬としてシーサーペントの皮を受け取った。


「あの、先に頂いた素材で作ったので、宜しければお受け取り下さい」


 俺は先に用意して貰ったシーサーペントの皮で空間魔術を施した鞄を二つ取り出して、女王に渡す。


「これが例の鞄ですか、名前はなんと言うのですか?」


 名前? 商品名のことか。う~ん…… ここは分かりやすく行くかな。


「この鞄は “マジックバック” とお呼び下さい」


「マジックバックですね。使い方を説明してくれませんか?」


 このマジックバックは肩下げタイプになっていて、中は空間魔術で拡張され、元の容量の約三十倍になっている。シーサーペントの皮は丈夫なので、拡張容量を増やしても問題はなかった。


 口は広めにして、海で使用する為、海水が入らないようにアダマンタイトでジッパーをつけた。一般で売るとしたら直ぐに取り出せるようにボタン式にするつもりだ。折りたたみ式も作ろうとしたのだが、空間を拡張してしまうと鞄自体が一定の膨らみを保ったままになり、折りたたむことが不可能になってしまう。


 中へ物を入れるのは簡単で、鞄の口から直接入れれば良いだけ。では取り出すのにはどうすればいいのか? 二、三十倍にも拡張された空間で普通に手を入れても届く筈がない。なので、これも魔術を用いて鞄の空間内を把握、操作出来る術式も刻んである。

 鞄の口から中を覗き込んでも、暗闇で見えないようになっており、そこに手を入れて魔力を込めると術式が発動する仕組みになっている。

 術式が発動すると、鞄の中にある収納物を把握することができ、任意の物を空間魔術で手元まで引き寄せることが出来る。これで鞄の中を手探りで探さなくても瞬時に欲しいものが取り出せる訳だ。


 重さに関しては苦労した。空間を拡張して中に物を入れれば、その分重くなるのは当然で、それを解消する為に組んだ術式が重力魔術と呼ばれるものだ。これは物の重さを変更出来る魔術なのだが空間の拡張とは違って、変更された重さを維持するには魔力が随時必要になるので注意しなくてはならない。鞄の側面に触れて魔力を流し、術式を発動すると半日は鞄自体の重さが五分の一にまで軽減出来るようにしてある。


「成る程、分かりました。これは便利ですね」


 説明を受けた女王はマジックバックを弄りながら、頻りに感心していた。


「出来ましたら、使い心地や問題点、その他要望があれば、お教え頂けると幸いで御座います」


「試験運用という訳ですか…… 良いでしょう。ただし、次の取り引きには調味料の他にマジックバックもお願いしますね」


「ありがとうございます。それからもう一つ受け取って頂きたい物が御座います」


 俺は魔力収納から一本の槍を取り出した。その槍は討伐隊の為に作ったものとは違い、柄に模様や珊瑚で装飾を施し、槍頭は三叉になっている。


「これは…… 三叉の槍ですか?」


「左様で御座います。私めの前世の世界での海の神が持っていたと伝えられている槍を再現してみました。女王様には、さらに威厳を高めて頂きたく、このような贈り物をと思い至った所存で御座います」


 女王は見た目も身に付けている装飾品も豪華で華やかなんだけど、何か物足りないと思っていた。そこで思い付いたのが武器だ。豪華な武器を持てばより一層女王として威厳が増すのではと思ったのだ。

 海を管理している種族の王なのだから、前世の知識を参考にして、見た目重視でこの槍を作らせて貰った。


「立派な槍ですね。貴方が前にいた世界での海の神が持っていた武器ですか…… 異界の神の物でもおそれ多いことです」


「いえ、ただの言い伝えですから、気にせずにお受け取り下さい」


「そうであれば、遠慮なく頂きますね」


 そう言った女王は、顔を綻ばせ槍の柄を優しく撫でている。喜んで貰えたようで何よりだよ。


「この槍には名前があるのですか?」


「はい、この槍の名前は “トリアイナ” と申します」


 槍の名前を繰り返し呟いた女王は、粛々と槍――トリアイナ―― を頭上へと掲げた。

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