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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
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7

 

「そうですか、それで丈夫な素材がないかと訪ねて来たのですね?」


「いえ、本来の目的はこの魔動コンロの事で、お伺いしました。素材の件はついでと言いますか、あればいいなと言ったものでして」


 日が昇る頃に訪れた俺達に人魚達は嫌な顔一つせずに迎え入れてくれた。いやほんと、こんな朝早くからすいません。

 アンネの精霊魔法で島内まで来ると、近衛隊長のリヒャルゴとヒュリピアが出迎えてくれた。空間の歪みを女王が感知して、俺達が来るだろうから迎えに行くようにと指示があったらしい。


 ヒュリピアは俺達を見るなり近寄ってきて、料理部屋を作った後の事を楽しそうに話してくれた。

 初めは、エレミアから教えてもらった料理を作っていたがその内、自分達であれこれと試行錯誤を繰り返し、オリジナル料理を作り始めているらしい。女性人魚達の間ではちょっとした料理ブームが起きているみたいだ。今も料理の最中なのか、良い匂いがここまで届いてきていた。

 是非とも、自分達の料理を見て欲しいとヒュリピアはエレミアを連れていってしまい、アンネもそっちの方が楽しそうだとついていってしまったので、今俺は一人で女王と謁見している。


「これは随分と小さく纏まりましたね。これなら他の拠点にいる者達にも届ける事が出来ます。早速お願いしても宜しいですか?」


 試作品として作った鉄製の魔動カセットコンロを見て、女王は満足げに頷き仕事を依頼してきた。


「承りました。では、アダマンタイトをお借り致します」


「よろしくお願いしますね。その間に貴方の言ってた丈夫な素材について思い当たる物がありますので、用意させておきましょう」


 おお! 余り期待していなかったけど、どうやらあるみたいだ。良かった、ワイバーンの皮なんて高すぎて買えないし、冒険者に依頼しても、上位の者しか受けられず困ってたから助かるよ。


 リヒャルゴに先導され、アダマンタイトが保存されている部屋まで行き、魔動カセットコンロを作成していると、人魚達が何やら大きな水色の皮らしき物を運んできた。

 随分とでかいな。これが女王の言っていたワイバーン並みの強度を持っている素材なのか?


『ほう、あれはシーサーペントの皮だな。あれなら強度は十分だ。その上、水にも強いので旅には最適だぞ』


 はい? シーサーペント!? それってあのドデカイ化け物の事だよな? 人魚達はそんなのまで仕留める程強いのか。


「これは討伐隊が仕留めたシーサーペントの素材だ。強度も十分なはずだが、どうだ?」


「はい、文句なしです。あの、リヒャルゴさん。人魚達はシーサーペントも狩りの対象にしているのですか?」


「む? そうだな…… 狩りというよりは間引きに近いな。奴等は気付くと数が多くなり、海の生物を見境無く食い荒らす。放って置くと生態系が崩れる恐れがあるので、討伐隊を組んで定期的に駆除しているのだ」


 まぁ、あの巨体だからな。あれで数が多くて大食ならば、あっという間に海の生物がいなくなってしまいそうだよね。


「先も言ったが、強度は十分だ。なので、一匹仕留めるにも苦戦を強いられる。シーサーペントの犠牲になった者も少なくはない。これも使命なので仕方ないのだがな」


 今人魚達が使っている武器と言えば、海の魔物の骨や牙を加工した槍だけ。それでは固い皮膚を貫くのは難しく、苦労しているみたいだ。

 なら俺がアダマンタイトで武器を作れば良いのでは? 人魚達はシーサーペントを此れからも倒していかなければならない。俺は鞄作成の為にその皮を必要としている。いい考えだと思うけど、リヒャルゴに聞いてみるか。


「俺がアダマンタイトで武器を作りましょうか? それならシーサーペントの体も容易に突き刺せますよね?」


 その提案を聞いたリヒャルゴが目を見開き、衝撃を受けたかのような顔で立ち竦んでいたが少しすると、意識を取り戻した。


「…… そうか、そうだったな。お前はアダマンタイトを加工できる。なら武器だって作れるのは当然の事。しかし、コンロと違って武器として使用すると、今の人間達に目をつけられる恐れがある。俺だけでは判断に難しいので女王と討伐隊長とで話し合いをする時間が欲しい」


 ま、直ぐには決められないよな。住み処だけで使うコンロより、武器の方が外に持ち出す頻度が多いから、その分人目に晒される危険は高い。慎重にならざるを得ないのだろう。


 話し合う為に、女王の元へと戻ったリヒャルゴを見送り、魔動カセットコンロを作り終えた俺は、用意してもらったシーサーペントの皮を使って鞄の作成に取り掛かる。


 シーサーペントの皮は十分な強度に加えて、ゴムのような強い弾力性を持っていた。これなら素晴らしい鞄が作れそうだ。

 暫く鞄作りに没頭していたら、朝食を一緒に食べないかと誘われたので、作業を一時中断して食堂に向かう。


 前に来た時と同じように女王のいる中央のテーブルに通され、席に着くと、ちょうどエレミアとアンネも来ていて俺の隣に座った。


「お疲れ様。人魚達の料理はどうだった?」


「うん、皆真剣に、それでいて楽しく料理をしていたよ。味の方はこれから自分で確かめて」


 へぇ、それは楽しみだね。そんな会話をした直後に料理が運ばれ、テーブルに次々と置かれていく。揚物に汁物、炒め物と煮付け等、種類が豊富になっている。あの刺身一択だった食卓がよくここまでになったものだ。


「このような食事が再び出来るようになったのは、貴方のお蔭です。感謝していますよ」


 テーブルに並べられた、まだ湯気が立ち上る料理を嬉しそうに眺めながら女王が礼を述べてきた。


「いえ、自分はただ商売をしただけですので……」


「フフ、それでは頂きましょう」


 女王が料理に手をつけると他の人魚達も料理に手を伸ばし始める。


 人魚達の腕は素晴らしいものだった。最近まで料理をしたことがなかったなんて信じられない。よく短期間でここまでの味が出せるようになったな。

 このスープなんて凄く旨いのでエレミアに聞くと、昆布や他の物でちゃんと出汁をとっていると言うではないか。人魚達の料理に対する熱意を感じた気がするよ。


 俺なんか、味噌汁は味噌さえ入れれば旨く出来ると思って作ってみると、味噌を溶かしただけのお湯になってしまった。不味くは無いんだけど何か違う。俺の作りたかった味噌汁とかけ離れていて困惑したものだ。後で出汁をとらないと駄目だと知って面倒だな、なんて思った記憶がある。


 そんな話をエレミアにしたら呆れ返っていた。だってインスタント味噌汁は中に入っている味噌を入れるだけで良かったから、そう思ってしまうだろ?


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