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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
94/812

5

 

 冒険者ギルドに着いた俺達は、昨日話を伺った女性冒険者を見付けたので話し掛ける事にした。


「昨日はどうもありがとうございました。とても参考になりました」


「うん? ああ、昨日の…… 確か商人の坊やか。参考になったのなら良かったよ」


 先ずは軽い挨拶から始まり、世間話を少ししてから本題に入る。


「実はですね、こういう魔道具を仕入れたのですが試してみませんか?」


 そう言って俺は指輪をひとつ取り出して、女性冒険者に渡した。彼女はキョトンとした顔で受け取った指輪を眺めている。


「これが魔道具? 随分と小さいわね。どんな効果があるの?」


 俺は女性冒険者に効果の説明をすると、彼女は面白そうだと興味を持ってくれたみたいで、この場で魔道具を発動しようとする。その場合自分の汚れが床に落ちてしまうと伝えると、それは嫌だと苦い顔をしたので、それじゃあ訓練場で試そうという事になった。


 冒険者ギルドには訓練場があり、新人教育や冒険者同士が己を高めるために木剣を交えていたり、一人で黙々と筋トレをしている者もいる。

 訓練場に着いた女性冒険者は早速指輪をはめて、魔術を発動した。すると、指輪から出た泡が彼女の全身を包んでいくその光景を、周りの冒険者達が何事かと集まってくる。

 全身を包んでいた泡が徐々に下に落ちていき消えていくと、女性冒険者の服と体の汚れと思われる、黒ずんだものが残されていた。


「この殆どは服の汚れだからね! 私、ちゃんとお風呂には入ってるから!」


 予想以上の汚れが出たことに女性冒険者は顔を赤らめながら、声を荒らげている。そんな様子を見ていた周りの冒険者達も興味を持ってくれて、俺にも貸してくれと頼んでいた。なので、腕輪と首飾りも取り出して冒険者達に渡すと、各々試し始め、その効果に驚き、感嘆している。


「なんだこりゃ! 体がスッキリするぞ!」

「おお! 臭くねぇ! これはいいな」

「良いわねこれ、これで旅の間も匂いに悩まなくて済むわ」

「うお! これが俺の汚れか? すげぇ量だぜ」

「おい! 汚れを落としたら穴掘って埋めろよ! くせぇだろうが!」


 新しい玩具を与えられた子供のようにはしゃぐ男性冒険者達と、この魔道具の有用性に目を光らせる女性冒険者達。掴みは良いようだ。


「冒険者の皆さん! 今試して貰った魔道具は、本日の正午に中央広場の南側で販売致します。指輪ひとつ、二千リラン。首飾りが二千五百リラン。腕輪が三千リランとなっております。興味がある方は是非とも、お立ち寄り下さい」


 良い宣伝が出来たので、最初に試してくれた女性冒険者に、その魔道具をお礼に贈った。


「だいぶ好印象だったね。これなら全部売れるんじゃない?」


 ギルドから宿への帰り道でエレミアが嬉しそうに微笑んでいる。確かに好印象だった、これならもう少し数を増やしてもいいかも知れない。

 宿に戻った俺は昼になるまで魔道具を作り、宿で昼食を取った後、中央広場へと向かった。


 広場の中心には大きな木が一本立っていて、その周りにベンチが設置されている。人が多く行き交い、露店や屋台も沢山出ていて賑わっていた。

 露店は野菜や魚等の食料品もあれば、何だかよく分からない置物まで様々だ。

 屋台は飲食物ばかりだな。鉄板で焼いているあれは焼きそば? いや、似ているけど麺が違うな、海鮮の具が絡まり焼かれていく様子を見ていると、涎が出てきそうだ。


 別の屋台に目を向けると、お好み焼きのような物を作っている。青のりも鰹節もないけど、ソースとマヨネーズが掛かったそれは正に、海鮮お好み焼きだ。もしかしてソースと同じく、マヨネーズもシャロットが作ったのか? 旨そうな匂いが広場に漂っていて、さっき食べたばかりなのにお腹が減ってくる。


『ライル! なにあれ!? 凄い美味しそうだよ! 買ってよ!!』


『ふむ、小麦粉を溶かして焼いているのか。単純だが、実に旨そうだ。我にも頼む』


 すっかり興味を持ってしまった二人に催促され、露店を開く前に焼きそば擬きと、お好み焼きを大量に買わされてしまった。

 魔力収納内で美味いと言いながら、食べているアンネとギルに、俺達の分もちゃんと残しておくように頼み、広場の南側で適当な場所を見付けたので、そこに綿布で作ったシートを敷いて、商品を並べる。


 魔道具とついでに収納内で育てた果物も置いて、座りながら客を待つ。


「よっこらせっと……」


「また言ってるね、おじいちゃんみたい」


 エレミアに指摘されて、また言ったのかと自覚する。こればかりは仕方ない。前世からの癖みたいなもので、無意識に出てしまうから治しようがないんだよね。


 露店を出して暫く座っていると、ギルドにいた冒険者達がちらほらと買いに来ていた。どうやら宣伝が効いたようだな。


「よお! 聞いたぜ、何やら面白い物を売ってんだって?」


 他の人に聞いたのかガストールが訪ねて来たので、魔道具の説明をしたら、関心したように息を漏らした。


「ほう、成る程。長持ちしない代りに安い魔道具か、しかも体や服を纏めて丸洗いする効果。こいつは女冒険者だけでなく、旅をする者なら必ず欲しくなる品物だぜ。俺にも指輪のやつを二つくれ。しかし本当に安いな、魔道具ってだけで最低でも一万リランはするものなんだが、こんなんで儲けが出るのか?」


「お買い上げありがとうございます。これでも十分な利益になりますので大丈夫ですよ。 それと、壊れた魔道具は此方に持ってきて頂ければ、指輪ひとつ六十リラン、首飾り八十リラン、腕輪百リランで買い取ります」


「おいおい、壊れた魔道具を買い取ってくれるのか? そいつは良い。六十リランもあればエールの三杯は飲めるぜ」


 ガストールは上機嫌で広場の奥へ消えていった。リサイクルすれば新しい鉄の仕入れ量を減らすことが出来る。そうやって、元手を出来るだけ掛からないようにすれば、赤字にはなりにくいだろう。

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