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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第五幕】港湾都市での再会と開店
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4

 

 俺達は冒険者達の話を伺う為、冒険者ギルドに来ている。冒険者達には主に旅をしていて困った事や、こんなのがあったら良いなと思った事を聞いてみると、返ってきた答えの大半は、やはり荷物に関するものだった。


 金がないから安物の鞄を買ったが直ぐに壊れただの、丈夫だけど物が余り入らないと嘆いていた者もいる。冒険者達はどれだけ荷物を少なくするのかが大事になるらしい。何時どこで戦闘になるか分からないので、素早く動けるようにしたいようだ。

 ポーターという荷物を運ぶ仕事をしている人がいるみたいだけど、それを頼む冒険者は少ない。下手したら全ての荷物が紛失してしまう恐れがあるから、それを頼むのは護衛等の守りをガチガチに固めた旅団ぐらいしかいないだろうと話していた。


 次に多かったのは、野宿に関する事だ。柔らかくて丈夫なマントが欲しい、保存食が不味いとか、場所によっては火が使えなくて、白湯も飲めないとも愚痴を溢していたな。殆どの冒険者はテントを用意せず、マントを寝袋代りにして地べたで睡眠を取っている。だが、硬い地面では起きたとき、体中がバキバキに固まっていて、寝覚めは最悪だという話も多く出ていた。


 女性冒険者は、衛生面に関する悩みが多い。せめて体を拭く位はしたい、服の汚れをどうにかしたいとか、体の匂いが気になる等、女性ならではだね。


 後は仕留めた獲物を解体した後の手についた汚れをどうにかしたいという話もあった。なんでも水で洗っても匂いが染み付いて、何日も落ちない事もあるらしい。そのせいで狙っていた女性に逃げられたとか言ってたけど、それだけが原因では無いと思ったが言葉にはしなかった。


 やはり、荷物の悩みは多いな。それは追々どうにかするとして、今はどんな魔道具にするかだ。俺達は宿に戻り、自分達が旅をして思った事や冒険者達から聞いた事を参考にして意見を出しあった。


 冒険者達から聞いた荷物や野宿に関する悩みは、流石に小さな魔道具では解決出来そうにない。なのでエレミアも強く推した衛生面の悩みからどうにかしようということで意見は纏り、それが魔術で実現可能かどうか、ギルに判断してもらって製作に取り掛かる。


 魔道具の素材は屑鉄から精錬した純度の高い鉄を使用して、指輪や首飾りといった装飾品の形にしていき、術式を刻んでいく。デザインは前世で見たことのある幾何学模様にしたり、エレミアとアンネに頼んだりして、順次に仕上げていった。



 一段落する頃には、外はすっかり日が暮れていて、窓の外は真っ暗だ。先ずは様子見ということで、指輪と首飾り、腕輪をそれぞれ三十個ずつ作り、売り出そうかと思う。まぁ、初めだからそんなに売れないだろう。


 水の魔術を基準にして組んだ術式は、体や服の汚れを落とすというものだ。自身の魔力で発動させるだけで良いので、魔石や魔核は必要としなく、発動させると汚れを落とす成分を持った泡が装着者の全身を包み、服ごと丸洗いしてくれる。汚れを落とす成分には、一般で販売されている石鹸やシャンプーを参考にして、出来るだけ肌と髪を痛めないようなものにした。


 魔術で作られた泡は魔法と同じく、魔力が無くなれば消えてしまう。全身を包んだ泡は汚れを落とし、溜め込みながら地面へと落ちていく。そして魔力が尽き、消えた後に残るものは自分の体と服から落ちた汚れだけ。

 汚いかと思うけど、これは旅の途中の野外で使用するのを目的として作ったので、そこは目をつぶって貰いたい。効果の程は俺とエレミアで試してみたが特に問題は見つからなかった。


 この三種類の装飾品の効果は同じだが、使用回数がそれぞれ異なる。これは単純に強度の違いによるものだ。指輪は小さく、邪魔にならないように出来るだけ平らにした分、薄くなり五回程でヒビが入り壊れてしまう。首飾りは革紐に鉄で十字架やハート等の意匠を凝らした物になっていて、これは八回が限度だ。腕輪は他の二つより多少大きめなので、十回まで使用できるようになっている。


 元から壊れる事を前提とした魔道具で、最低でも五日は風呂に入らなくても、体を清潔に出来るのならば文句は無いはず。

 しかし、初めはちょっとした物でも作ろうと軽く考えていたのだが、気付けば結構な物になったな。



 翌朝、商工ギルドに向かい、受付の女性にギルドカードを提出して要件を伝える。


「あの、出店許可を頂きたいのですが」


「はい、この街での出店を希望ですね? この用紙に必要事項を記入した後、三番のカウンターへどうぞ」


 受付の人から用紙を受け取り、記入台で用紙に必要事項を掻き込んでから三番カウンターの受付の女性に、ギルドカードと一緒に提出した。


「はい、確認致しました。ライル様は現在、行商人として登録されています。露店商人に変更なさいますか?」


「露店を出すには、変更しないと駄目なんですか?」


「いえ、短期でしたら可能です。ですがその分、お金が掛かりますよ?」


 さて、どうするかな。取り合えず短期で様子を見てみよう。


「短期でお願いします」


「畏まりました。それですと、一月契約で三千リラン頂きます。一月後、契約の更新が無ければ自動的に解約されますのでご注意下さい。場所は用紙に記入された希望通り、南商店街と広場の南側の範囲でお願いします」


 お金を支払い、ギルドカードに出店許可を示す文を刻んで貰ってギルドから出た俺達は、冒険者ギルドへと向かう。


 このまま露店を開いても売れそうもないので、先に冒険者達に商品の宣伝でもしようかと思い付いたのだ。

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