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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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33

 

 首領を捕らえ暫くすると戦闘の音は徐々に小さくなり、完全に収まった。どうやら盗賊達を鎮圧したみたいだ。神官達が回復魔法で傷ついた者達を治療しているなか、シャロットはグレアムからの現状報告を受けていた。


「被害はどうですか?」


「はっ! 重傷者は何名か出ましたが、此方側には死者は出ておりません」


「左様ですか、それは良かったですわ。それで盗賊達の方はどうですの?」


「残念ですが、健闘及ばず全員を生きて捕らえることは叶いませんでした」


「…… 誠に遺憾ではありますが、ご自身の命には代えられませんものね…… ご苦労様でした。彼等を拘束した後、村へ戻りましょう」


 兵士達は捕らえた盗賊達に、手枷の他に何やら首輪のような物を着けている。シャロットが言うには、あれは魔法や魔術を封じる魔道具で、首輪の装着者の魔力を記憶して、魔法と魔術を発動するときの魔力の流れを感知すると、電流が首に流れ込む仕組みになっているらしい。


「エレミアさん、有難う御座います。貴女のお陰で助かりましたわ」


「どういたしまして。でも、シャロットなら自分で防げたんじゃない?」


「そんなことは御座いません。本当に危ない所でしたわ」


 そうか? 結構余裕そうに見えていたけどな。改めて捕らえられている盗賊達の様子を見ると、多くの者が手足を折られていた。どうやら、シャロットのゴーレムにやられた者達は皆そうなっているみたいだな。生かして捕らえる為といっても、惨い仕打ちだね。神官の人達が呆れながら治療してるよ。それでも生きて捕らえる事が出来たのは、三十名程で残りは死んでしまっている。


 廃村の中で穴を掘ってそこに盗賊達の死体を並べ、纏めて火葬する。肉の焼ける匂いが辺りに漂うその空間で、シャロットは静かに手を合わせ祈っていたので俺もその横に並び、目を瞑って黙祷を捧げた。


 別に心から冥福を祈っている訳ではない。これは習慣なのだろう。そうすることが当たり前で、そうしなければいけないと幼い頃からそう教えられていた。これは、いただきますと同じ感覚だと思う。他人のために心から冥福を祈ったり、食事をする度に犠牲になった命に本気で感謝をしている人なんてどれ程いるのだろう。


 それでも俺達は祈ってしまう。ただのポーズだと自覚していても…… 周りの人達はそんな俺達を見てどう思うだろうか? 日常的に人が死んでいくこの世界では、悪党の死にいちいち祈っている暇などないのかな? 火が消えるまで俺とシャロットはこの場に留まり、この光景を目に、胸に焼き付けるように見詰め続けた。


 朝日が昇る頃、牢馬車が到着したとの伝令があり、兵士達は盗賊達を連れて山を下りていく。


「では、わたくし達も戻りましょうか」


 そう言ったシャロットの顔はどこか哀しげであった。


 捕らえた盗賊達と共に村に戻った俺達は、今日中には村から出発する為、牢馬車を交代で見張りながら少し休むことになり、俺とエレミアも村長宅の一室で休ませてもらっている。しかし、大して動かなかったからそんなに疲れてはいないんだよね。ベッドの上でゴロゴロと暇をもて余しているとノックの音が聞こえ、シャロットが訪ねてきた。


「お休みのところ恐れ入ります。少しよろしいでしょうか?」


「ああ、いいよ。どうぞ入って」


 シャロットは 「失礼致します」 と部屋に入り、備えつきの椅子に腰を掛ける。


「今回のご協力、誠に感謝致しますわ。ライルさん達のお力添えで此方の被害を最小に抑える事ができました。正直、死者が出るのもやむを得ないと覚悟しておりましたのよ」


 そう言うと、シャロットは深々と頭を下げる。


「いや、俺の方こそ無理を言ってしまって…… 役に立ったようで何よりだよ」


 顔を上げたシャロットは、じっと此方を見据えてくる。なんだ? 何か別の用事でもあるのかな?


「…… 盗賊の方たちを火葬した時、一緒に祈ってくれて嬉しかったですわ。わたくしの考えはこの世界では異質みたいですから、少し寂しく感じておりましたの。ですからあの時、自然にわたくしの隣に来て黙祷を捧げるライルさんの姿を拝見して懐かしく思いましたのよ」


「その気持ちは俺も分かるよ。向こうでも日本人の習慣や考え方って、他国から見れば独特らしいからね」


「ええ、わたくし達はその独特な価値観を共有できる仲間であるとも言えますわね。だからこそ知りたいのです…… 貴方のお隠しになさっているお力について」


 そうか…… 正直言って俺は、シャロットを信用して全てを話してしまいたいと思っている。有力な後ろ楯は必要だ。でも、彼女の父親がどういった人物か分からない限り、迂闊な真似は出来ない。この力はレインバーク領の発展に大いに役立つだろう。それを領主ならば見逃すはずがない。話の分かる人だったらいいんだけど…… 取り合えず領主が街に戻って来るまでは誰にも話さないほうが良いだろう。


「…… と、思っておりましたが、考えを改めました。同じ元日本人だからと言って全てを話せる訳では御座いませんものね。ですから、此方から詮索は致しませんし、貴方がわたくしに使って下さったお力については、この胸にしまっておきます。いつの日か貴方からお話しして頂けるまで、お待ちしておりますわ」


「ありがとう…… それと、ごめん」


「オホホ、謝らなくて結構ですわ。わたくしが勝手にお待ちするだけですもの。では、これで失礼致しますわね、ごきげんよう」


 部屋から出ていくシャロットの背中を見送り、気を使わせてしまったと申し訳ない気持ちになってしまう。


『隠す必要はないと、我は思うのだがな。気に入らない者がいたら殺せばいいだけではないか? 何なら我が力を貸してやるぞ』


『おお! 珍しく意見が合ったね。 そうだよ! 堂々としてれば良いじゃん! 国の一つや二つ滅ぼしちゃえば誰もわたし達にちょっかいなんか出してこないと思うよ』


 だから! そういうのが嫌だから隠しているんじゃないか!

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