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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第四幕】ゴーレムマスターと人魚族の憂鬱
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26

 

 この部屋にキッチンを作るのは良いけど、何処から手をつけようか? イメージとしてはレストランなどにある厨房のようにしたいのだけど。先ずは、魔道具から取り掛かろう。魔動コンロは原型があるので問題はない。熱を発する部分と細やかな所はアダマンタイトで作り、周りの外に触れる部分を海の魔物の素材を使う。後はオーブンでも作ろうかと考えている。これはギルに協力してもらい、術式を組んでいこう。それと調理器具も作らないと、鍋とフライパンをアダマンタイトで作成すればかなり有能な物になるはず。


 収納スペースや調理台、魔道具の配置はアンネとエレミアに頼み、図にして貰う。二人は楽しそうに、ああでもないこうでもないと魔力収納内の家で配置図を書いていた。


 アダマンタイト鉱石を製錬して魔動コンロを作り、周りの岩を加工して収納棚や調理台を作っているその間に、ギルにはオーブンの為の術式を考えて貰っている。残念ながら俺にはオーブンに関する知識が乏しかった為、ギルが持っている “知識支配” のスキルを使っても、詳しい構造は分からなかった。それでもどんな物かは知ることが出来たので、今までの魔術の知識と合わせ術式を組んでくれている。


「ねぇ、食事の用意が出来たから一旦休憩にしない?」


 ヒュリピアが声を掛けてくるまで気付かなかったが、結構時間が経っていたようだ。あれを作ろう、これがあれば便利だろうと色々作成していたら時間が経つのを忘れてしまっていた。これは今日中には終わりそうもないな。


 ヒュリピアに別の部屋に案内され中に入ると、そこには岩を削って作ったと思われるテーブルと椅子の様なものが幾つか置かれていた――というか生えていると言った方が良いのかな? とにかく、ここは人魚達の食堂なのだろう。


 中央の一際大きいテーブルには女王がいて、俺達はそこに通された。


「ご苦労様です。どうですか? 何か問題はありませんか?材料が足りないと言うのなら用意しますよ」


「ありがとうございます。ですが用意して頂いた素材で十分で御座います。ただ、今日中に仕上げるのは難しそうなので、明日までお待ち頂いても宜しいでしょうか?」


「ええ、構いませんよ。納得がいくまでやってください」


 女王とそんな話をしていると、食事が運ばれてきた。魔物の骨を加工して作った白い皿の上には色とりどりの刺身や海草などが乗っている。おお! あれは活き造りだな、何の魚か分からないけど旨そうだ。それに俺の好きなイカ刺しもある。活きがいいのかゲソが元気良くウネウネと動いていて旨そうだ。


 見事に生ばかりだね。クソ~、何故ここに清酒が無いんだ! 仕様がない、ブランデーを水で割ってロックで飲むか。久しぶりの刺身だから強い酒で舌を鈍らせたくないが、酒は欲しい。


「ねぇ、ライル…… 本当に大丈夫なの? 全部生だよ?」


 エレミアの顔が真っ青だ。食文化の違いは難しい問題だから、こればかりは仕方がない。


「一応、魔力で調べて寄生虫の類いは見つからなかったけど、どうしても無理そうなら魔力収納の中で食事をすると良いよ」


「…… うん、無理だったらそうさせて貰うわ。ありがとう」


 では早速頂くとしますか! 俺は魔力収納から醤油を取り出して小皿に垂らし、酒を用意して準備を整える。


 どれから食べようか? このマグロのような艶やかな赤身から頂くか。木の腕を操り、フォークで赤身を刺して運び、醤油を少しつけてから口にと入れる。うん、うん…… うはっ! うめぇっ! なんだこれ? 赤身なのに大トロのように口の中で溶けていくぞ。


 次はイカ刺しだ。 うおっ! 弾力がありすぎてフォークが刺さらねぇ。 何とかフォークで掬って醤油をつけて食べる…… う~ん、このコリコリとした食感、酒が進む。ゲソも食べてみると吸盤が舌に貼りついてくる。こいつは活きがいいね!


「フフ、そんなに美味しそうに食べてくれると嬉しくなります。普通人間は生食に嫌悪感を抱くのですが、貴方は違うのですね」


「そうですね、前世で暮らしていた国がそういう食文化だったので、抵抗はありません」


 やっぱり刺身は旨いな、おっ! あれはウニだよな? 俺の知っているウニと比べると大きくて肉厚だ。次はあれを食べる、これは決定事項である。


「その黒いのは調味料ですか?」


 俺の食事風景を見て、女王が醤油に興味を持ったようだ。


「はい、これは醤油と言って、エルフが作っている調味料です。宜しければ試してみますか?」


「良いのですか? ではお言葉に甘えるわね」


 新しく醤油を用意して渡すと、女王は刺身を一切れ醤油をつけてから食べる。


「あらっ! 美味しいわ! 良いわね、いつも塩だけだったから新鮮だわ」


 良し! どうやら気に入ってくれたみたいだ。


「お気に召したようでなによりです。どうです? 調理部屋が完成した後も、この醤油や他の調味料を仕入れては如何ですか?」


「そうですね…… 代金は魚介類だけですか?」


「それと、魔物の素材と魔核も頂けたらと……」


「いいでしょう。部屋が完成して、その調味料を使った料理をご馳走してください。美味しければ取り引きを致しましょう」


 料理を作れとな? その調味料がどんなものか確かめたいのか、これはエレミアに頼んでみよう。そのエレミアだが、やはり生では体が受け付けなかったようで、今は魔力収納内で火が通った食事をしている。


 女王が美味しいと醤油をつけて食べているのを見て、他の人魚達が集まりだしたので試供品として醤油を、ついでに酒も人魚達に振る舞う。

 果実酒や蜂蜜酒は人魚の女性達に好評で、アップルブランデーは男性達に好評だった。


 気が付くと、いつの間にか会食は宴会へと変わっていた。人魚達は酒の入ったグラスを片手に、刺身や海草をつまみながら笑顔で呑んでいる。アンネなんか率先して騒いで呑んで、ほんと楽しそうだね。そんな光景を女王は嬉しそうに眺めていた。

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