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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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光と雷 5

 

「面倒だから、今度は二人まとめて相手してやるよ。その方が少しは楽しめそうだしな」


 ジークの強気な発言にアロルドは顔を曇らせ、レイラはニヤリと笑う。


「へぇ? 随分と嘗めてくれるじゃないか。アロルド、アタイらの力を見せてやろうじゃないさ! 」


「何でお前と二人で―― と言いたい所だが、あんなのを目の当たりにしては頷かない訳にはいかないな」


 黒騎士やレイシア達の下へ戻る途中で僕は、軽く目を合わせるだけで言葉を交わす事なくアロルドとレイラの二人とすれ違う。


「クレス。結果は残念だったが、良い戦いだったぞ」


「…… 相手はあの黒騎士に訓練されてきた強者。…… 実力に差があって当然」


 戻ってきた僕に、レイシアとリリィが励ましてくれる。気遣ってくれるのは有り難いのだけど、この不甲斐ない気持ちは消えてはくれなかった。


「では、両者共に用意は良いな? …… 始め!! 」


 横にいる黒騎士の合図と同時にアロルドとレイラが魔法を放つが、やはりあの尋常ならざる反射速度で避けつつ距離を詰めてくるジークに、二人は苦々しい表情を浮かべる。


 勇者候補二人を相手にしてもジークとの力の差が埋まらないとは…… 僕一人じゃ敵わない訳だ。


 彼等の戦いをただ黙って見ている僕に、黒騎士が観戦しながら話し掛けてくる。


「どうだ、あやつは強かろう? 余が鍛えし者だからな。例え三人同時に相手をしたとて、負ける事はないだろう」


「…… はい。正直、僕一人でもそこそこやれると思っていたのですが、これ程までに差があるとは…… 」


「それは仕方無き事。本来であれば勇者候補の力を授かった者には鍛練など不要であった。だが、今回は例外だ」


 例外だって? 黒騎士がジークを鍛えなければならない事情があったというのか?


「これまでの歴史を読み解けば、魔王に力を分け与えられた魔物の実力は、勇者候補と同等であるというのが判明している」


「え? 僕達三人でやっと倒せるぐらいだったのに…… もしかして、僕達は歴代の勇者候補達より弱いと? 」


「いや、その逆で余りにも相手が強くなっているのだ。良く考えよ。今期の魔王は他のキング種の力を取り込み、更に魔王としての力を得ているのだぞ? その力は過去の魔王を遥かに凌ぐだろう。正に規格外の化け物だ。そんな者から力を分け与えられた魔物が、過去と同じ強さとは到底思えん。お主らが苦戦していたのが良い証拠だ。三人で漸く倒せたのだから、単純に計算しても本来の三倍は強くなっていると見て良い」


 それが事実だとしたら、勇者ですら魔王には敵わないという事になる。なら、勇者候補の力を合わせても魔王には勝てないのか?


「そう悲観するのはまだ早い。力が足りぬと言うのなら、鍛えれば良いだけの事。お主らには今のジークと互角に渡り合えるぐらいにはなって貰う。訓練と言えど余は容赦はせぬぞ」


「え? もしかして、黒騎士が僕達を鍛えてくれるのですか? しかし、魔王軍の方は宜しいのですか? 」


「連合軍に加え、オリハルコン級冒険者にも話を通して協力して貰っているので当分は問題ない。あやつらは今のお主らよりは強いからな。先ずは強くなる事と他の勇者候補を集める事を最優先とする」


 あの黒騎士が僕達を…… 確かに、ジークとの手合わせで己の力不足を痛感したばかり。


「良いねぇ、良いぞ!! やっぱり二人同時は楽しめるな! 」


「クソッ! 何だよあの動き、全然こっちの攻撃が当たらないじゃないか!! 」


「落ち着きな、アロルド。前から思ってたんだけどさ、あんたって忍耐ってのが足りてないんだよ」


「はぁ? お前、何で今そんな事言うの!? 」


 今もアロルドとレイラの二人を相手に本気を出さずに楽しむジークを見て、言い様のない焦燥感が沸き上がってくる。一刻も早く魔物との戦争を終わらせる為には、もっと強くならないと…… 弱いままでは誰も救えない。


「…… よろしくお願いします。僕は、もっと強くなりたい」


「うむ。余に任せよ」


 どんなに過酷な訓練でも、諦めずに食らい付いて見せる。そう覚悟を決めていると、ふと自分の頭に疑問が浮かんで来たので黒騎士に聞いてみた。


「あの、今思ったのですが…… 何故魔王はわざわざ力を分散しているのでしょうか? それほどの力があるのなら一人で各国を攻める方が確実なのでは? 」


「その疑問は尤もだ。戦争は数が物を言うが、圧倒的な力の前では無力となる事もある。それでも彼奴が自分で動かぬのは何かしらの理由があると余は考えている。そう、何か別の目的があるのやも知れぬ。それに彼奴がどんなに力を持っていたとて、理の中にいる存在には変わりない。そう心配する事もないだろう」


「理の中、とは一体どういう意味なのですか? 」


「何れ分かる時が来る。それにしても、カーミラは随分と厄介な事をしたものだ。恐らく、こうなる事を見越してあのオークキングに手を加えたのだろう。魔物といえど、他者の力を奪うなど通常では有り得ぬ事。定説を捻じ曲げ、混沌を振り撒く。そこまで世界を憎むか…… 」


 何だかあからさまに話をはぐらかされた気がするけど…… 黒騎士の言うように魔王が強化された原因は確かにカーミラにある。なら、魔王が動かないのもカーミラの意図するものなのだろうか?




 結局、攻撃を避けられ続けたアロルドとレイラは最終的に体力切れで座り込み、ジークの勝利で決着がついた。


 力を付ける事と残りの勇者候補を探して集めるなど、まだまだ課題は多い。焦らず着実にこなして行こう。


 こうして、僕達の帝国での訓練生活が始まった。



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