表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
808/812

光と雷 4

 

 最初に仕掛けたのは僕からだった。


 黒騎士の掛け声が聞こえるとすぐに魔法で全身に光を纏い、光速でジークとの距離を詰める。


 一瞬の内に目の前まで移動したというのに、ジークは驚く素振りも見せずに不敵な笑みを浮かべていた。


 いや、惑わされるもんか…… 僕は流れのままに、未だに剣を構えていないジークへと剣を振るう。


 驕りとまではいかないが、僕には自信があった。この速さについてこられた人間はいない。だからこそ戸惑い判断が遅れてしまった。振るった剣から伝わる感触と、ガキン! という金属が打ち合う音で、僕は自分の攻撃が防がれたのだとそこで漸く理解した。


 戦いの最中、一拍の硬直と思考停止は死に繋がる重大なミスだ。そんな愚を僕は犯してしまった。直ぐ様ジークの反撃が来るものだと身構えたが、此方に視線を向けるだけで何もしてこない。


 どうしてだ? 頭の中に浮かぶ疑問を無理矢理押し込み、僕は再び光を纏い光速でジークから距離を取る。


「…… そんなものか? 本当に今のがお前の本気か? 」


 そう言うジークの目には失望の色が垣間見えた。


 何をしているんだ、僕は…… 。ジークの手痛い言葉を受け、深く呼吸をして気を落ち着かせる。同じ勇者候補だから怪我をさせまいと思っていたけど、そもそも彼にはそんな心配は無用だった。むしろ失礼に値する。


「すまない。今度こそ本気で行かせて貰うよ」


「へっ! やっとマシな面構えになったな。良いぜぇ、来いよ!! 」


 三度光を纏う僕に、ジークはまたかよ…… という顔をするが、それもすぐに消える。


 僕の光魔法による光速移動には、直線でしか移動出来ないのと連続して使用出来ないという欠点がある。だがそれは勇者候補に選ばれる前までの事。今の僕には勇者候補の力で光魔法をより高度に扱えるようになり、魔力さえもてば連続で光速移動が可能となった。


 直線的にしか移動出来ないのは変わらないけど、そこは連続移動で補えば良い。


 ジークの前に移動してはまた魔法を発動させて今度は右横に、次は上へ飛んで左横に、斜め移動も駆使して縦横無尽に光速で周囲を飛び回る僕に、ジークは更に笑みを深めた。


 余裕な態度を見せているはいるが、忙しなく動く目と顔から僕の姿を追えていないのが分かる。


 光と速さで撹乱し、僕はジークの背後を完璧に捉えた。今度は寸止めなんて考えない。全力を乗せた一撃をその背中に振るうが、またもやジークの剣によって防がれてしまう。


 そんな馬鹿な!? ジークの体に雷が走り、全身がブレたかと思ったら、気付けば此方に向き合い剣で受け止めている。明らかに僕が背後に迫ったのを見てから動いていた。光速で移動する僕が言うのも何だけど、人間の反応速度じゃない。


 驚愕する僕の腹部に強烈な鈍痛と、そこから体中に痺れるような痛みを感じ、何度も体を打ち付けられる衝撃と共に視界が回る。


「ゴホッ! 」


 軽く吐血をしつつも立ち上がり、片足を突き出す姿勢を保つジークを見て、漸く僕は蹴り飛ばされたのだと理解した。


「確かにお前は速い。だが、移動だけだ。剣速は並より少し上といったところか…… それじゃあオレには一撃も当たんねぇよ」


 突き出した足を戻し、はぁ…… と息を漏らすジーク。


 この人間離れした反射速度は彼の魔法によるものなのだろうか? いや、今考えても答えは出ない。ただ全力でジークに挑むだけだ。


 それから僕は光速で彼に向かっては剣を振るい、また光速で移動して横や背後にと回って攻撃を仕掛ける。何度も、何度も……


 しかし、その何れもが尽く彼の剣に防がれる。


 剣が打ち合う度に僕の聖剣とジークの聖剣に宿る光と雷が、まるで火花のように弾け飛ぶ。


「ハハハハ! どうした? もっだ! もっと来い!! 」


 うわぁ…… 凄く楽しそうだ。こっちはそんな余裕すら無いというのに。


 彼の言うように僕の剣が遅いのなら、魔法ならどうだろうか?


 そう思った僕は一旦ジークから離れて魔法で光の矢を数本生み出しては彼に放つ。


 同じく光速で向かってくる光の矢を、ジークは剣身が明滅する聖剣で全て斬り払ってしまう。


 彼の剣は光にも追い付くというのか…… どうすればジークに此方の攻撃が届くのだろうと少しだけ意識を逸らしたのがいけなかった。


 バチッ! と音がしたかと思えば、眼前にジークが迫っていた。


「素早く移動出来るのがお前だけだと思うなよ! 」


 まさか移動速度まで上げられるとは…… 完全に油断した。あのふざけた速度で振り下ろされる剣を、僕は光速移動で後ろへと飛び辛うじて避ける。


 危なかった…… 今のは完全に斬られたかと思ったよ。


「フン、その鎧に救われたな」


 ジークのそんな言葉に僕は自分の体に目を移せば、胸部分に切れ目がついていた。アダマンタイトの鎧に傷を付けるとは、聖剣の威力を改めて実感して背筋が寒くなる。


「そんじゃ、続きと行こうか? 」


 剣を構えるジークを見て僕も身構えるが、ここで黒騎士から声が掛けられる。


「そこまで!! 大体の実力は分かった。両者剣を下げよ」


 ふぅ…… どうやらジークとの手合わせは終わりのようだ。ホッとしている僕とは逆に、ジークは不満を露にしていた。


「なんだ、やっと面白くなってきたのにもう終わりか? もっとやらせろよ! 」


「駄目だ。これ以上やるとお前は抑えが効かなくなるからな」


 黒騎士の有無を言わせない様子に、ジークは大きな舌打ちと共に顔を背ける。


 完敗だ。今回ジークとの手合わせで、黒騎士と訓練を重ねていたとはいえ、同じ勇者候補でもこれ程まで力の差があるのかと痛感したよ。


 もっと強くならなければ…… 少なくとも彼と互角に渡り合えるくらいでないと、一緒に戦っても足を引っ張ってしまう。


 あまり人と競ったりはしなかったけど、今は何だか無性に悔しいよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ