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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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光と雷 2

 

 予期せぬ黒騎士との出会いの余韻を残したまま、僕達は皇帝との謁見を果たす。


 凝った意匠を施した巨大な柱が左右に何本も連なる程に長く広い謁見室にレイラは目を丸くして首は忙しなく動くが、それを止める者は誰もいない。僕もアロルドも視線があちらこちらと移ってしまってそれどころではないからだ。


 玉座まで伸びる真っ赤な絨毯は、足が沈んでしまうのではないかと思うくらいフカフカで逆に歩きにくい。何もかもが初めての光景に何度かその場で止まり掛けるが、どうにか玉座の前まで移動する。


 まだ空の玉座の前で僕達は方膝を着き頭を垂れ、皇帝が来るのを待っている間、このフカフカな絨毯のお陰で全然膝が痛くならないな―― なんて呑気な感想が頭を過った。


 そうして待つ事数分。奥から人の気配と足音が聞こえ、衣服の擦れる音で誰かが玉座に座ったのが分かる。まぁ誰かって一人しかいないんだけどね。


「遠路遙々ご苦労。面を上げ立って良いぞ」


 威厳ある声に従い、下げていた顔を上げて立ち上がり、玉座に座る人物と対面する。


 燃えるような赤い短髪、青い瞳の奥に獰猛な光を隠し持つ壮年の男性が豪奢な服とマントを羽織り玉座に腰を掛け、足を組んでいた。


 この人がアスタリク帝国の皇帝か…… 実力主義な国の頂点に立つだけあって、こうして面と向かい合っているだけで強者の空気を感じる。


「よく来てくれた、勇者候補達よ。私がこの帝国の皇帝、エイブラム・ハリューゼン・アスタリクである。我が国は諸君の来訪をコ心より歓迎しよう」


「有り難きお言葉、誠に感謝致します。私は水の勇者候補、アロルド。陛下とお目通り叶い、恐悦至極で御座います」


「同じく光の勇者候補、クレスです」


「…… あっ! えっと、土の勇者候補の、レイラ…… です」


 自然に頭を下げる僕とアロルドに、少し慌てたレイラが後に続いて名乗る様子に、皇帝は微笑を浮かべて軽く首肯く。どうやらリリィの言うようにあまり格式には拘らないみたいだ。


「大体は黒騎士から聞いている。何でも、勇者候補達で力を合わせ魔王を打ち倒すとの事だが…… 本当にその様な事が可能なのか? 」


 そう話す皇帝の目は、しっかりと僕を見据えていた。


「はい、僕はそう信じています」


 根拠も具体的な案もない短い返答に、皇帝は数秒目を瞑り再び口を開く。


「どちらにせよ、我々と協力して魔王と戦ってくれるなら問題はない、か…… フッ、聞いていた通りの人物だな。ライルはお前を信用しているようだから、その顔に泥を塗る真似はしない事だ」


「ライル君が? 失礼ですが、陛下はライル君とお知り合いで? 」


「共に酒を呑み交わした仲だ。あれはお前が思っている以上に恐いぞ? 黒騎士の次に俺が恐れる人物ではあるな」


 冗談めかして言ってはいるが、目が完全に笑っていない。これは本心から出た言葉だ。そう気付いた瞬間、レグラス王国でライル君の戦う姿を思い出し、背筋が寒くなりピクリと体が震えた。


「陛下、発言をよろしいでしょうか? 」


「うむ、許可する」


「ありがとうございます。帝国での私達の立場はどの様になるのでしょうか? 」


 アロルドの質問に皇帝は玉座の肘掛けに右肘を置き頬杖をつく。


「お前達とその仲間は当分の間、黒騎士の指揮下に入ってもらう予定だ」


「そうなりますと、私達はすぐにでも前線へと送られるという事ですか? 」


「いや、それはない。リラグンド王国の転移魔術を始めとする技術提供のお陰で次々と連合軍に参加してくれる者達が集まっている。暫くは彼等だけでも魔王軍を抑える事は可能だ。レグラス王国との敗戦で向こうの動きも止まっている。その間に此方は着々と準備を整え、魔王がいる国に攻め入り包囲する。しかし、時間も人手もまだまだ必要だ。それと、肝心の勇者候補が全員揃っていないではないか。先ずはそこからだな」


 確かに、今判明していない勇者候補は闇と風の二人だけ。雷の勇者候補はこの帝国にいる訳だから、此処には四人の勇者候補が集まっている。火の勇者候補であるアラン君とは戦場を共にした経緯があるから説得もしやすいのだが、残りの二人は全くの未知数だ。


「風の勇者候補については此方で調べて大体は分かっているが、闇の勇者候補の情報は何一つ掴めていない状況だ。噂の類いも出ないとなると、かなりの力を持つ組織に匿われていると考えられる」


 皇帝が言うには既に風の勇者候補の情報は掴んでいるようだ。しかし、帝国の力を持ってしてでも闇の勇者候補に関する情報が得られなかったとは…… これは最悪闇を除いた六人で魔王と戦う事も念頭に置くべきだろう。


「お前達がこれからどう働いてもらうかは、黒騎士に一任している。後の詳しい事は本人に聞いてくれ。では、期待しているぞ。若き勇者候補達よ」






 こうして僕達は皇帝との謁見を済まし、謁見室から出て黒騎士が待っている練兵場へと向かう。


「いやぁ、あれが皇帝か…… 思ったよりずっと強そうだったな! 」


「おい、そういう事は城から出て言えよ。不敬罪で捕まったらどうすんだ。まぁ、たしかに他国の王とは明らかに違ってはいたけどな。流石は軍事国家といったところか。それよりクレス、皇帝陛下の言葉を聞いてますます不安になってきたぞ? 本当に勇者候補全員を集められるのか? 」


「確かに大変なのは分かってるよ。でも、やるしかないんだ。僕達から勇者が選定されるまで待ってなんかいられない」


 ギルディエンテやアンネリッテの話では勇者が選定されるまで短くて一年、長い時には三年も掛かったらしい。その間にも魔王による犠牲は増えていく。一日でも早く魔王を倒すには、勇者に拘っていては駄目なんだ。



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