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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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光と雷 1

 

 レグラス王国に攻めてきた魔王軍を倒し、インファネースへと帰るライル君を見送った僕達は、援軍に駆け付けてくれた帝国軍と共に転移結晶にて帝都を訪れた。


 レヴィントン砦を引き続き守らなければならないゲオルグ将軍とは別れを告げ、水の勇者候補であるアロルドと彼の下に集った義勇兵達、土の勇者候補であるレイラ、そして僕とレイシア、リリィ、シャロットから貰ったゴーレム達が帝都の門を潜る。


「へぇ…… レヴィントン砦も凄かったけど、此処もなかなかに頑丈そうな門だね。それに色んな装飾や意匠もあってこっちの方が豪華だ! 流石は帝国の首都ってところだね! 街並みも人も全然違うよ」


「おい、ただでさえ図体デカイんだからそうはしゃぐと目立つだろ。俺達は勇者候補なんだぞ? 前向いて堂々としてろよ」


 何時ものオーバーオール姿で田舎娘感丸出しのレイラがキョロキョロと辺りを珍しそうに見回し、それをアロルドが諌める。


 帰還した帝国軍の後ろにいる僕達は否が応にも民衆の目に止まってしまう。魔王の脅威に晒されている今、人々の不安は募るばかり。僕達は皆の希望にならなければならない。レイラのような頼りなく見える言動は人前では慎むべきだと言うアロルドには同意する所はある。


 魔王軍を倒した事が既に民衆に知れ渡っているのか、帝国軍の帰還に人々は笑顔で出迎え、建物の屋上や窓から花びらが舞い落ちてくる。まるで凱旋パレードのようだ。


「流石は軍国家と言われるだけあって、軍の人気は高いようだ。こうも熱烈に迎えてくれるなら、何がなんでも勝とうとする気持ちになるのも分からんでもない。帝国の騎士もさぞかし遣り甲斐がありそうだな」


「…… レイシアは帝国の騎士になりたいの? 」


「いや、騎士として生まれた国に仕えるのは当然。帝国に魅力を感じていない訳ではないが、そこは揺るがないぞ」


 キリッとした顔で言ってるけど、確実に心揺るいでいたよね? まぁ、自信満々で答えているから口には出さないけどさ。


 暫く人々の歓声を浴びながら街中を進んで行き、漸く城壁へと辿り着く。


「開門!! 」


 門番の声と共にゆっくりと開かれる重量感のある城壁の門に、初めて訪れたであろうレイラはポカンと口を開いて見上げているのを、またアロルドに注意されていた。



 門を抜けた先には馬車が用意され、僕達はそこへ乗り込み、馬で走る帝国軍の先導で城に向かう。


 あれだけはしゃいでいたレイラも、馬車の窓から見える代わり映えしない景色に飽きたのか、すっかりと落ち着きを取り戻し、今はアロルドから皇帝に謁見する際に注意すべき事を教わっている。


 田舎の村でずっと畑を耕していたレイラには、当然最高権力者と会う時の礼儀作法なんて分かる筈もなく、アロルドは物凄く不安そうだ。


「はぁ…… もう城に着くってのに、全然不安が無くならねぇ。本当に大丈夫なのか? 」


「大丈夫だって! アタイに任せときな!! 」


「その自信は何処から来るんだよ…… 」


 痛そうに片手で頭を押さえるアロルドにリリィが声を掛ける。


「…… 今代の皇帝は格式に拘らない人物だと聞く。…… だから粗相があったとしても気にしないと思う」


「だと良いんだがな。ふぅ…… まぁコイツも一応は勇者候補なんだし、多少の事は大目に見てくれるだろう」


 アロルドが一株の不安を抱きつつも馬車は城へと到着し、僕達は城内に案内される。


 此処で帝国軍とその指揮官であるランスロットと一時別れ、アロルドの義勇軍とゴーレム達、そしてリリィとレイシアが別室にて待機、勇者候補である僕達だけが謁見室へと呼ばれた。


「良いか? 質疑応答は俺とクレスがやるから、お前は出来るだけ口を開くなよ? 」


「言われなくても、難しい話は苦手だからあんたらに任せるよ」


 使用人に案内され城を歩いている途中、僕達の前に一人の人物が近寄ってくる。その人物に僕は勿論、アロルドと案内してくれている使用人もその場で足を止め体が固まる。レイラだけがそんな僕達を不思議そうに見つめていた。


 あの黒く禍々しい全身鎧、血で染まったかのような赤黒いボロボロのマント、そして四本の捻れた角が生えている髑髏を模した兜…… 実際に会うのは初めてだが、その威烈な噂は昔から大陸に伝わっている。


 遠目からでも分かる…… あの人物こそ帝国最強の守護者、黒騎士その人だと。


 その黒騎士が僕達の前まで歩いてくる。その姿と人間とは思えない異様な気配に、僕の鼓動は激しく脈打ち息も荒くなる。横目で確認してみると、アロルドも僕と同じなようで息を荒くし汗をかいていた。黒騎士の事を知らないであろうレイラも、その異様な空気を察したのか、緊張しているようだ。


 歩いているだけでこれだけの威圧を放つなんて…… 噂以上に恐ろしい。まともに言葉を交わせる自信がない。ライル君はどうやってこんな人物と知り合いになれたのだろうか?



「よく参られた、勇者候補達よ。知っている者もいようが、一応名乗っておこう。余は黒騎士、この帝国を守護する者也」


 兜を被っているとは思えない程によく通る低音の声に、身が竦む僕達を気にする素振りも見せずに黒騎士は僕に視線を移し言葉を続ける。


「貴様が光の勇者候補クレスだな? 話はライルから聞いている。皇帝との謁見が済んだら城の練兵場まで来るがよい。そこで貴様の力を余に見せてもらおう。それに、会わせたい者もおる。待っているぞ」


 そう一方的に告げた黒騎士は返事を聞かず去って行った。


 残された僕達はただ唖然とするだけ…… ライル君。黒騎士に何を言ったんだい? 君の事だから悪い事は言ってないよね?

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