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「これからも公国による弊害はありそうだな…… この国もそろそろ変革を向かえるべきやも知れぬ」
不意に、神妙な面持ちをした国王様は自身に言い聞かせるよう呟いた。
「それでは、計画を早めると言うのですね? 」
「既に貴族派は公国の手に落ちた。最早彼等はリラグンドに仇なす国敵と同意。その主となる者の排除が、王として最後の役目となるであろう。形は違えど国と民を想う心は同じだと信じたかったのだがな…… 私は何時も判断が遅すぎる。少々過激ではあるが、王位をあの子に譲らなければこの国は変わらん」
あの子というのは王太子である第一王子の事だな。インファネースの独立に王の退位と新国王の即位。その何れもが貴族派から猛反発を受ける事になるだろうが、何処か吹っ切れた迷いのない国王様の表情を見るに、そう心配しなくても良さそうだ。
そんな国王様のお姿に、王妃様は優しい頬笑みを浮かべていた。
「あなたがそう決めたのなら私は全力で補助します。運命を共にすると、あの時に誓いましたからね」
「いつもすまない。ディアナがいてくれたからこそ、私は王でいられた。今度は私が誓いを守る番だ。権力に縛られない穏やかな日々を君と共に…… 」
あのぅ…… いい雰囲気なのは分かりますけどね、まだ何も終わってませんよ?
周囲からの何か言いたげな視線に気付いた国王様と王妃様は、向き合う顔を逸らしては取り繕うように咳払いをした。
「ま、まぁ多少時間は掛かるだろうが、これで国の膿を排除出来る」
「あの子は常々、強引にでも貴族派を排除するべきだと言っていましたからね。あの子が王になったのなら、もう貴族派に未来はありません。しかし、このインファネースの技術を国で独占し、公国に戦争を仕掛けてしまう恐れがあります。その前にインファネースを独立させ、中立の立場を確定せねばなりません」
次期国王様は敵対する者には武力行使をも厭わない性格のようだ。国の安全を考えればそれも一つの手ではあるけど、帝国のように年がら年中戦っている国にはなって欲しくない。
国王様が王妃様に言った穏やかな日々、それは俺も同じ思いだ。母さんや仲間達とそんな日常を送る。大袈裟な願いでは無いと思うが、それが中々どうして叶えらづらいものなんだよなぁ……
「ブフ、お二方は国と我々民の為にその御身を尽くしてくれたである。全てが滞りなく終わりましたなら、吾輩の持てる力でお二方の生活を補償すると約束致します」
「無論、我々白百合騎士団も王妃様に何処までも付いていく所存であります! 」
そう言ってくれた領主と団長に、国王様と王妃様が揃って頭を下げた。非公式の場ではあるが、国のトップの二人が臣下に頭を下げるなど珍しい所の話ではなく、領主と団長は当然慌てて二人の頭を上げようと言葉を尽くす。
「ほんと、人間って変だよね。ま、そこが面白い所なんだけどさ」
「そうですね、アンネ様。ずっと話で人間というものを里の皆から聞いていましたが、こうやって実際に見て関わると全然違います」
他種族の目には俺達人間がどう映っているのかは分からないけど、アンネとエレミアのように少しずつお互いに歩み寄り、分かり合っていきたいものだ。
さて、少し場が乱れはしたけど気を取り直して続いての議題へと移る。
「国に関しては私達で何とかなりますが、一番の問題はカーミラです。ウェアウルフが言っていた事が真実なら、一国の力では持て余す案件です。世界を破壊し別の世界へ、ですか? 話が大きすぎて実感が沸きません。なので勿論対処方を考えるのも難しいですね」
「ブフゥ~、世界が溜め込んでいる魔力を利用して異世界へ行くであるか…… カーミラはどの様にしてその魔力を世界から取り出そうしているのか、それが分からぬ限りどう動いて良いか…… 」
再び重い空気が流れるなか、不安気な様子で此方に目を向けるシャロットに俺は軽く頷いて見せると、うっすらと口角を上げた。
「それに関しては他種族の方達が動いてくれるそうです」
沈黙を破る俺に、この場にいる皆の視線が集まる。言った後で何だけど、いきなり注目されるのは滅茶苦茶緊張するな。
「それは本当なのですか? 」
王妃様は俺の横にいるエレミアとアンネに問い掛ける。
「えぇ、本来私達の役目は世界の管理し守る事。カーミラがその世界を本気で壊すつもりなら、私達もまた本気でそれを阻止しようとするのは当然じゃない? これまではカーミラが世界を破壊するつもりだとしか情報が無かったからどう動くか迷っていたけど、その方法が判明した今、対処出来るかも知れない」
「あたし達妖精はマナ、エルフには森を、ドワーフには大地を、人魚には海を、世界の中心部を基準として調査を頼む予定よ。天使には空にいるカーミラの捜索を引き続きして貰うわ」
「世界の中心部とはなんですの? 」
「言葉通り世界の真ん中よ。あんた達が立っているずっと下、その中心部に大量の魔力が眠っているの。カーミラが利用しようとしているのは多分それだと思うの。もし、何らかの影響でそれが一気に噴き出してしまったら、確実に世界は壊れてしまうわね。だけどこれはあたし達しか知り得ない事の筈だけど、いったいカーミラは何処で知ったのかな? ま、狙いさえ分かれば皆で守りを固めりゃ良いだけっしょ! 」
出たよ、アンネの前向き思考。相手はカーミラだぞ? そう簡単に行けばいいんだけどな。