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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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 インファネースに戻った俺達は、家で待っていた国王様と王妃様に事の顛末を軽く報告し、領主と各商店街の代表達の協力で厳重な安全確認を行ない、ユリウス陛下とマリアンヌさんを自国のサンドレア王国へ転移魔術で無事送り届けた。


 俺も護衛を兼ねた見送りに加わったのだけど、心なしかユリウス陛下が疲れたような顔色をしていた。きっとマリアンヌさんに色々と言われたのだろう。普段穏やかな人って怒らすと怖いって聞くからね。偏見かも知れないけど、この世界の女の人って男よりも逞しい印象がある。まぁ俺の周りにそんな女性が多いからそう感じるだけかも。


 色々とトラブルはあったが、ユリウス陛下が帰り際にインファネースの独立には全面的に賛成する意を示し、その支援もしてくれると約束してくれた。恐らく足を引っ張る形となってしまった負い目も含まれているかと思うが、心強い事には変わりない。


 不幸中の幸いとでも言うのか、ウェアウルフの被害は街に無く、始末された貴族については表に出ていない。何でも、貴族街である北地区で起こった騒動は極力外には漏れないように配慮してあるとか…… 面子や外聞を気にする貴族の情報規制は思っていたよりずっと厳しい。しかし、貴族間での情報漏洩まで防ぐのは難しいらしく、噂として貴族社会に広がるだろうと北商店街代表のカラミアが言っていた。



 ウェアウルフによる国王暗殺を阻止した翌日、お祭りで街が賑わっているなか、領主の館にて朝から緊急会議が開かれた。


 メンバーは実際にウェアウルフと対峙した俺とエレミアとアンネ、それと白百合騎士団の団長ベルティナと特攻隊長のアルマ、そのウェアウルフに指示を出していたと思われる貴族の死体を発見した領主とシャロット、そして王妃様と滞在期間を一日延ばした国王様が応接室へと集まり、改めて詳しい報告を行う。




「―― 以上となります。私としてはユリウス陛下を危険な目に遭わせてしまった事に責任を感じております。どの様な処分も謹んで受ける所存で御座います」


 報告をし終えた団長が最後にそう付け加え、王妃様と国王様に深く頭を下げる。


「いえ、貴方達は十分な働きをしてくれました。それにベルティナの機転でユリウス陛下が他国の王であるのを向こうに気取られずに済んだ事を考慮すれば、貴方達を責める理由はありません」


 未だに頭を下げ続けている団長に王妃様は優しい言葉を掛け、漸く頭を上げた団長は嬉しさ半分、悔しさ半分といった表情をしていた。


「しかし、ウェアウルフの隠密は思いの外優秀なようだ。特に名持ちの二体…… ウォルフとマトヴェイとか言ったか? ライル君の話ではもう一体いるらしいではないか。先程してくれた報告には二度とこの街には来たくないと言っていたようだが、それを完全に信じる事は出来ないし、インファネースでなくともまたリラグンドに潜入してくる可能性だって少なくはない。公国とはもう関係ないというのも本当かどうか怪しいものだ」


 国王様は腕を組んでは難しい顔をして仰った。確かに、ウェアウルフが全て真実を言っていたとは思えないが、全部が嘘だとも言いきれない。真実味のある嘘を言うには何割か本当の事を混ぜると上手く相手を騙せると何処かで聞いた覚えがある。問題はその情報の何処が真実でどの部分が嘘なのか見極める事だ。


「そうは言うけどさ、そんなの考えて分かるもんなの? 」


 前世で聞いた事がある論を言う俺に、アンネが呆れ気味に聞いてくる。


「ブフゥ~…… それは難しいであるな。ここは嘘と真実、両方を想定して対策を講じるべきと吾輩は具申するである」


「と、なりますなら…… ウェアウルフ対策と公国の侵略行為に対する対策を優先すべきではありませんか? 」


 領主とシャロットの発言に俺達は顔を顰めてはウ~ンと唸り、王妃様が口を開く。


「そうは言っても、ウェアウルフに関しては良い方法が思い浮かびませんね。魔力をも隠してしまう相手にどの様な対策があるのですか? 」


「結界魔術は基本対象の魔力を判別しておりますので、魔力を感知出来ないウェアウルフは対象外となってしまい、意味を為しません。これを魔力でなく生体感知にすればウェアウルフも入ってはこれなくなりますが、それだと全ての生き物が結界を通れなくなってしまいます」


「そんじゃさ、門だけ結界を張らずに通れるようにしたら? 」


「それだと今までと変わりませんのでは? 相手は人間そっくりに擬態し魔力も隠してしまいますので、検問を強化しても突破されますわね」


「正に八方塞がりであるな…… 」


 重い空気が部屋内に充満し、誰もが目線を下げ口を閉ざしてしまう。


「ウェアウルフに関しては追々と何か有効な手を考えて行きましょう。議論する事はまだまだあります。マーカス卿、件の死体について何か分かった事はありますか? 」


 王妃様に水を向けられた領主がゴホンと咳払いをして、立ち上がる。


「ブフ、その者の背後関係を調べてみた所、どうやら貴族派ではなく中立派として振る舞っていたようでありますな。しかし、何時からか貴族派に利用されるようになり、今回のように斬り捨てられたと思われるである。ウェアウルフの言葉を信じるなら、公国とリラグンドの貴族派が繋がっている証拠を残さないよう、中立派の貴族を隠れ蓑に使ったと推測した次第であります」


「では、そこから公国や貴族派に辿り着くような確証に至るものは掴めなかったと? 」


「恥ずかしながら、王妃様の仰る通りで御座います」


 死人に口無し、まったく上手く隠蔽したもんだよ。まぁ公国と貴族派の関係については裏ギルドが証拠を掴んでいるので、それを口実に責め立てるのは可能だ。問題なのはそのタイミングなんだよね。証拠があるからと言って、無闇に出ては何もかも無駄になってしまう事になりかねない。


 本当に政治の世界ってのは闇が深くてややこしいものばかりだよ。

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