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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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 それから俺と団長が交互にウォルフへの質問を続け、そろそろ聞く事も無くなり始めてきた。


「それじゃ、次の質問だ…… カーミラは今何処にいる? 」


「難しい質問だな。それに答える前に聞くけどよ、お前らはあの空に浮かでいる山を知っているか? 」


「私は報告に聞いただけで実際に見てはいないが…… 確かライル殿は直接目にしたのだったな? 」


「えぇ、見ましたよ。あれはまるで空飛ぶ要塞のようでした」


 今思い出してもあれは無いよな。しかもステルス機能付きと狡過ぎるだろ。


「じゃあ、少し考えれば分かるんじゃないか? あれは常に空を不規則に漂っている。今何処にいるかなんか正確に分かる筈もねぇよ」


「不規則というのは本当なのか? 決まった航路があるとかじゃなくて? 」


「例えあったとしても俺達には知る機会もねぇな。何せあれを見たのも一回きりだからよ…… でも中に入った事はあるぜ。あんたが言った要塞ってよりも、研究所に近い内装だったな。ガラスの筒に満ちた液体によ、何か生き物なのか何なのか良く分かんねぇ物が浮かんでいるのがズラッと並んでいる部屋があったりと、気持ち悪いもんが沢山あったのを覚えている。居心地は良さそうではなかったな」


 空を漂う研究所、ねぇ…… ガーゴイルやギガンテスもそこで作られているのか。地上にあったのならその施設の場所を聞き出して壊してやりたいが、空にあるのでは手が出しづらいな。


「中に入ったと言ったな? お前達はどのようにしてその宙に浮かぶ要塞とやらに入ったのだ? 」


 団長の問いにウォルフはフッと鼻で笑う姿に、アルマは不機嫌そうに顔を顰める。


「おい、何笑ってやがる。何かおかしな事でも言ったか? 」


「いや、そう怒るなよ。ちょっと考えれば分かる事なのになと思って、つい笑ってしまっただけで馬鹿にした訳じゃあない。あんたらも転移魔術は知っているよな? っていうか実際に使っているだろ? 俺達もそれであの空山に招かれたのさ。おっと、先に言っておくが俺達はそこの座標を刻まれた転移魔石や結晶は持っていないぜ? 俺達の時は眼鏡野郎が持っていた魔力結晶を使ったからな」


 まぁ、大体はそうじゃないかなと予想した通りだった。しかし、ウォルフ達が転移魔術でその空山と呼ぶカーミラの本拠地に入れたとすれば、少なくとも張られている結界は転移を防ぐものではないという事だ。

 それともう一つ分かったのは、カーミラのいる空山は常に移動している訳ではないようだ。ウォルフの言っていた事には僅かな矛盾があった。空山が不規則に漂っているのなら、座標を指定しなければならない転移魔術ではそこへ到達するのは不可能で、その座標に転移するには空山が一度止まるか航路を予測しなければならない。もし航路を予測して転移魔術を使っているとなれば不規則な移動というのも怪しくなるな。


 どちらにせよ、一度その転移魔石か結晶を手に入れて解析する必要がある。


「その、空山? への転移魔石と結晶を持っているのはダールグリフだけなのか? 」


「俺は他の奴は知らねぇな。いや、そういや眼鏡野郎は特にカーミラ様への忠誠心と信頼の厚い者だけが持つ事を許されるとか自慢していたような…… ? 」


 成る程、であればダールグリフ以外にも所持している可能性はある。


「なぁ、もう良いだろ? 本当にこれ以上話す事もねぇよ」


 そんなウォルフの言葉に、俺と団長が顔を合わせる。団長の目が俺にもう聞く事はあるのかと問い掛けてきたので首を振って応答すると、団長は軽く首肯いた。


「分かった。情報の真偽はこの際良いとして、もうお前から聞き出せる事も無さそうだ」


「じゃあ、俺達を解放してくれるな? 」


「それはお前達がユリウス殿を無事に返してくれてからだ」


「おいおい、それだと先に人質を放した方が不利じゃないか。俺達が転移魔術を発動してから、お互い同時に解放するって話だろ? 」


「フン、勿論分かっている。転移魔術を使うのなら早くしろ」


 団長さん、あわよくばウォルフ達を捕まえようとしているのが丸分かりだよ。まぁ目の前で逃がすなんて許容出来ないのは理解できるけど、ユリウス陛下の為にここは我慢して貰いたい。


 ウォルフが懐から取り出した転移結晶に魔力を込めると、彼等の後方の空間に穴が開き、何処かの景色が覗き見える。


 転移魔術の発動を確認した団長はアルマに指示を送り拘束していた二体のウェアウルフを解放する。それに合わせて黒い体毛を持つウェアウルフであるマトヴェイがユリウス陛下を解放した。


 解放された二体のウェアウルフは持ち前のスピードですぐにウォルフ達の下へ走り、ユリウス陛下も光魔法による光速移動で俺達の所へ戻ってくる。


「…… 私の我が儘と不注意で迷惑を掛けて本当にすまない。この恩は近い内に必ず報いると約束しよう」


 悔しさと申し訳なさが入り交じった複雑な顔をしたユリウス陛下が謝罪の言葉を口にしつつ、油断せずにウォルフ達に目を向けていた。


「いえ、御身の安全を守るのが私達の仕事ですので…… 」


「それより団長、今から奴等を取っ捕まえるか? 」


「そうしたい所ではあるが…… この状況では無理だな。とても間に合わん」


 出来るならアルマの言うように逃げられてしまう前にもう一度捕まえたいが、この距離では彼等が転移するのが早い。


「ったく、面倒かけやがって。後でカリナからキツくお仕置きして貰うからな。覚悟しておけよ」


「ちょっと、ボス!? あんなの相手じゃ仕方ないと思いますけど? 」


「カリナの姐さんの仕置きは本当に洒落にならないからな…… 」


 焦る女のウェアウルフと遠い目をする男のウェアウルフが穴を潜ると、ウォルフが俺に笑い掛ける。


「じゃあな! 出来れば二度と会いたかないけど、そうもいかねぇよな」


 ウォルフとマトヴェイが転移して空間の穴が閉じれば、それまで緊迫した空気が若干緩やかなものとなり、漸く終わったかと実感する。


「成る程、ウェアウルフか…… これは思っていたよりもずっと厄介な相手だ。すぐに陛下と王妃様を交えて対策を講じなければならないな」


「くそっ! あの青い奴と黒い奴、今度会ったら絶対にぶっ殺してやる!! 」


 団長はウェアウルフへの危険度を上げ、アルマは不満と悔しさを爆発させる。


「今はユリウス陛下の無事を喜びましょう。それに、国王様と王妃様もご心配されておりますので、早く報告に戻りませんと…… 」


 何時までもここでこうしている訳にもいかないので、二人に声を掛けてインファネースに戻る事となった。



 防壁の門へ歩いている途中、ユリウス陛下が先程とは違って顔を青くした様子で呟く。何か、捕まっていた時より顔色が悪くないか?


「私が人質にされたなんてマリアンヌに知られたら…… これは非常に由々しき事態だ。なぁ、この事は彼女に黙っておいて貰えると助かるのだが…… 」


 いや、確実に王妃様から伝わりますって。身から出た錆なんですから、もう観念してマリアンヌさんからの叱責を甘んじて受けて下さいよ。

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