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「良し…… ここら辺でいいだろう。先ずはお前らの質問に答えてやっから、何か聞きたい事があるなら言えよ」
ウェアウルフと一緒に歩いてくる俺達に驚き困惑する門番に軽く事情を説明して通してもらい、暫く進んだ先でウォルフが此処で良いと口を開く。
門の方向には俺とエレミア、アンネ、そして団長とアルマ、その前には縄で拘束されたウェアウルフ二体の順で横並びになり、対面にいるのは、まだ魔力支配で動きづらそうにしているウォルフ、それとユリウス陛下を人質にしているマトヴェイだ。
何でも聞いてこいという雰囲気を出しているウォルフに、団長が質問を投げ掛ける。
「では…… お前達―― いや、カーミラとヴェルーシ公国との関係を聞きたい」
「まぁそこは気になる所だろうな。俺達もそんなに詳しく知っている訳じゃあないんだが…… 何でも、カーミラ様の目的の為にはあの国との協力? ここは利用と言った方がしっくり来るかな? とにかく一国の力を持つ操りやすい奴等が必要だったって事だ。カーミラ様と公国の間で何か密約のようなもんが交わされたらしいが、内容までは知らねぇな。大方、自分の国だけは助けてくれとか、そう言ったもんだろうけどよ」
魔王や魔物による被害から自国の守る為にカーミラと手を組んだと? どのみち彼女は世界を破壊するつもりなのに、公国はその事を知らないのだろうか?
「では、公国の目的は国の存続と発展と見て良いのか? その為にこのリラグンドを内側から崩し、公国に吸収しようと画策していると? 」
「そこまでは知らねぇよ。所詮俺達は体の良い雇われ者だからよ。ただ、今回の暗殺が成功しようが失敗しようが、これで最後だ。俺達があの国に従う義理も必要も無くなった。それがカーミラ様と俺達が交わした契約だ。もう公国にとお前らの街にも関わらねぇ――って言うかもう二度とあんな街に行きたかねぇよ」
ウンザリした様子で俺に目を向けてながらウォルフは肩を落とす。
「うむ…… となれば、今後貴様らは何をしようとしている? 」
「一先ずあの国からは離れる。その後はまたカーミラ様の指示に従って行動するだけだな。まだ詳しくは聞かされていないが、俺達に頼みたい事があるんだとよ」
う~ん、カーミラは公国を見限ったのかそうじゃないのか、ウォルフだけの証言ではちっとも分からないな。
「あの、団長さん。私も質問して良いですか? 」
「うん? あぁ、ライル殿なら良いだろう。きっと王妃様も許して下さる」
「ありがとうございます」
俺は団長に礼を言った後、目の前のウォルフに顔を向ける。狼の顔をしているせいで感情は読みづらいが、その瞳には不安を宿しているように感じた。まぁそう感じただけで気のせいだとは思うけど……
「単刀直入に聞くけど、カーミラの最終目的は? 」
「…… 俺達が知っているのは、この世界を破壊して選別された者達と共に別の世界へ行くとか何とか、ダールグリフとか言う眼鏡野郎が話していたな。あいつ、カーミラ様に心酔し過ぎて気が狂ってんじゃねぇかってくらいイカれてやがる。どうも俺はああいう奴は好きにはなれねぇ」
ダールグリフ―― カーミラの腹心的立場の人間で何度か俺達の前に立ちはだかり、ギルによって撃退はしてきたが結局は倒せずに裏をかかれるような結末になっている。カーミラの次に注意すべき危険人物である。
「世界を破壊するのと、別の世界に行くのに何か関係はあるのか? 結局はこの世界から離れるのに何故破壊する必要が? 」
「俺もその辺の仕組みは良く分からねぇけどよ。あの眼鏡野郎が言うには、世界を渡るにはもの凄い魔力を必要とするらしいぜ? しかもカーミラ様が成そうとしているのは、一度に大勢を異世界に送るんだ。その必要とする魔力がどんなに膨大か想像するのも難しい。そんな魔力を個人で持つ事はおろか、世界中の生き物を集めたって無理だって話だ。でもよ…… この世界が溜め込んでいる魔力なら、どうだ? 」
ウォルフの言葉に、団長とアルマを含めた俺達は嫌な予感で頭を埋め尽くす。
「まさか…… ありえない。そんな事が本当に可能なのか? 」
信じられないのは当然だ。俺だってそんなの信じたくはない。だからなのか、動揺した団長の呟きを聞き流してしまう。
「大規模な世界間での移動には、この世界を犠牲にする必要がある。世界が壊れる時、大量の魔力が放出される。それを利用して異世界への扉を開く―― そう奴は確信した感じで話していたから、本当の事だとは思うぜ? まぁ信じるか信じないかはお前ら次第だがな」
ウォルフのなげやりとも感じられる言葉に、アルマが額に血管を浮き上がらせ強く睨む。
「ふざけんな! それじゃ、なにか? ワタシ達はカーミラとその選ばれたって奴等の大袈裟な引っ越しの為に、世界と心中しろって言うのか? この世界が気に入られねぇんなら、勝手に出て行けば良いだろ! 此方に迷惑掛けんじゃねぇ!! 」
「んな事俺達に言われてもなぁ…… 」
俺もアルマと同じで怒鳴ってやりたいが、この怒りをウェアウルフ達にぶつけても八つ当りにしかならないので、ここはグッと込み上げてくるものを抑えた。
成る程ね、カーミラが世界を壊そうとしているのは私怨だけが理由ではなかった訳か。
「そんなの、絶対に許されない事だわ。カーミラは本格的に世界を敵に回すつもりなのね。なら、私達ももう容赦はしない。この事を他の種族に伝え、徹底的にカーミラの計画を阻止する為に全力で動くわ」
「カーミラ…… 本気でこの世界を消すつもりなんだね…… 」
神から世界の管理を任された種族の一人としてエレミアは憤慨し身を震わせ、共に仲間として魔王と戦い世界を魔物から救った経緯を持つアンネは寂しげな様子で空を見上げる。
彼等の証言でカーミラの目的の裏付けは取れたが、肝心の方法がまだ判明していない。どうやって世界を破壊するつもりなのだろうか? それと共に異世界へ行く者はどのように選別されるのか? ウォルフに聞いても知らないとしか答えないし、まだまだ分からない事だらけだ。