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はぁ、なんか一気に重大な話を聞いたお陰で頭痛がしてきたよ。それにしても一つの世界が二つにねぇ…… なんで神はそんなことをしようと思ったのだろうか?
「あの、なんで神様は世界を二つにしてしまったのですか? 完璧な世界ではなかったのですか?」
「その事に関しては今は止めておきましょう。時が来たらその二人が教えてくれますよ」
何だよ、またお預けか。まぁいいか、いずれ教えてくるみたいだし今はそれで良しとしよう。
用が済んだと言ったギルを魔力収納に入れて、少し気になっている事を女王に聞いた。
「アンネとギルはその “生と死を司る神様” に遣わされてこの世界に来たのですよね? 他にもいるのですか?」
「ええ、いますよ。私達人魚族は “水の神” によってこの世界の海の守護と監視を任されています。エルフは “土の神” によって、ドワーフは “火の神” 、有翼人族は “風の神” の命で其々に役目を持っています」
あれ? まだ三柱が残っているよな?
「あの、残りは?」
「あの三柱は説明が難しいのですが、“雷の神” は獣人を “光の神” は人間を “闇の神” は魔物、魔獣の担当をしています」
おや? 何だか説明の仕方がおかしい。この三つだけ役目ではなく “担当” と言っている。まるで神がその種族を監視しているような言い方だな。
「さて、話はここまでにして商談に入りましょうか?」
そうだ、俺は人魚達と商売をしに来たんだったな。すっかりと話が脱線してしまい忘れかけてた。まだ気になることはあるが話してくれそうも無いし、仕方がない。
「魔力支配のスキルなら、アダマンタイトも問題なく加工できるでしょう。それで、貴方は私達に何を望むのですか?」
「魚や貝などの食用に適した魚介類を頂ければと……」
「あら? そんな物で良いのですか? どうぞ、好きなだけ持っていっても構いませんよ」
好きなだけって、結構豪胆だね。でも持っていっても良いと言っているんだから遠慮なく貰っていこう。
「鉱石の他にも必要な素材はありますか?」
「海の魔物の素材や魔核がありましたら用意して頂けると助かります」
海の魔物なので水や海水には強いし、熱にも耐性があるだろう、魔核は動力源に必要だからね。
「それでは、どのような形で作りましょうか?」
「…… ? どのようなとは、どういう意味かしら?」
「どこかの部屋を調理部屋として改装するか、個人で料理するような小さいものにするかどちらが宜しいでしょうか? 勿論、これ以外の要望があれば仰って下さって結構です」
「あら! それは良いですね! 獲物を捌く部屋が幾つかあるのですが、その一つを調理部屋に改装してくれませんか? 素材は此方で用意しますので…… リヒャルゴ、彼等を部屋まで案内して頂戴」
「女王様の仰せのままに」
リヒャルゴに案内され、一つの部屋に通された。中々の広い空間に岩で出来た台座が並んでいる。海水の高さは俺の膝上くらいだ。良し! どうせこの力の事も、記憶持ちの事も知られているし、人間との交流もないようだから好きにやらせて貰おうかな。
先ずは、飲み水はどうやって確保しているのか? 調味料は何を使っているのか? など幾つか知りたい事があるのでリヒャルゴに尋ねてみた。
「飲み水は女王の精霊魔法のお力で、海水から確保している。それと同じ仕組みで、塩も確保しているな」
なんと! 海水から魔法で水と塩に分離させる事が出来るのか。塩田が必要ないなんて凄い便利だな。そうなると海は水と塩の宝庫だね。
「ライル、勘違いしないように言うけど精霊魔法だけだかんね、そんなことができるのは」
お? アンネが釘を刺してきた。そうか、魔法スキルでは無理なのか。でも魔力支配ならどうだろ? そう思って海水を少しだけ魔力で包み支配して試してみたら…… 出来てしまった。これはエルフの里にある泉の水の成分と一般に出回っている塩の成分を魔力で解析していたので、それに寄せて作ることが出来た。
そして塩を作った時に、ミネラル分を含んだ余分な液体が残った。まさかこれは苦汁か? おお! これがあれば豆腐が作れるぞ! これで冷奴で酒が呑める。後は米だ、清酒で冷奴は俺の正義と言っても過言ではない! それで居酒屋でちびちびと呑んでいるのが、あのどうしようもない日々の中で数少ない楽しみの一つだったな。
さて、余計な事をしてしまった。人魚達の食生活は、海の幸と塩だけってことだな。豪勢なのか質素なのか分からんね。生に塩かけて食べるんだろ? それも旨そうだけど、勿体ない! せっかくの食材なんだから美味しく調理して食べたいよね。それと醤油と味噌もお薦めしたい。
この部屋に続々と素材が集められていく。アダマンタイト鉱石に、海の魔物と思わしき素材と魔核、これだけあれば十分だ。これ等を加工して、この部屋に大規模なシステムキッチンを作ってやる。
やってやるぞ! 人魚達に温かい料理を!!




