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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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 〈ったく、やっぱり面倒臭せぇ事になったな。だから嫌だっつったんだよ〉


 青いウェアウルフ―― 確か名前はウォルフだったか? が、頭を乱暴に掻きながらぼやく。白百合騎士団に囲まれているというのに大した余裕だ。


 〈ボ、ボス…… すいません〉


 〈散々注意するよう言われてたのに…… 〉


 〈あぁ…… しょうがねぇよ。あの街にはあいつらがいるからな。元々失敗する確率の方が高かった。始末は俺がつけといたからよ、後は帰るだけだ〉


 始末…… ? それって指示を出していた人物を殺したのはウォルフなのか?


 〈我々を前にして随分と余裕ではないか。私はベルティナ・サントゥニオーネ。この白百合騎士団の団長をしている。名があるのなら聞かせてくれないか? 〉


 〈俺はウォルフ。まぁ、コイツらのボスって事になってるな〉


 〈ほぅ? ボス自ら来てくれるとは好都合。大人しく投降してくれるのなら手荒な真似はしない〉


 〈人間の言う事なんか信用出来るかよ。テメェらは魔物以上にズル賢いからな〉


 団長の言葉むなしく、ウォルフは抵抗の意を崩さない。身近で彼の力を見た俺からすれば、団長とアルマでは厳しいかも知れないな。


『王よ、ここは俺に…… あの程度の獣、すぐに殺して見せましょう』


『いや、バルドゥイン。気持ちは有り難いが、有力な情報を持っているウォルフを殺すのは惜しい。何とかして捕らえる事は出来ない? 』


『…… 善処しよう』


 あ、これは駄目なやつだ。ゲイリッヒもバルドゥインは手加減出来ないタイプだと言っていたし、やはり今回は彼の出番は無しだな。


『敵を殺すのは当然の事…… 解せぬ』


 バルドゥインとそんなやり取りをしている間にも、団長とウォルフの会話は進んでいく。


 〈そもそも俺達は人間の国や王には興味無いんだよ。今回の暗殺だって、そういう契約だから従っただけだ。成功しようが失敗しようがどうだって良い。契約は果たしたし、もう此処に用はない〉


 〈だから見逃せと? それこそ出来ぬ相談だな〉


 〈ならしょうがねぇ…… 力ずくで押し通るだけだ! 〉


 踏み込んだ地面が爆ぜ、一気に間合いを詰めるウォルフに、団長は反応すら示せずその鋭い爪を抵抗なく受けてしまう。下っ端ウェアウルフではどうにも出来なかった頑丈な鎧に深い爪痕を残し、そこから小さな罅が広がっていく。


 〈くっ!? あの二体とは比べ物にならない程の速さと力…… ボスの名は伊達ではないな〉


 〈誉めてくれてどうも。これで分かったろ? お前らじゃ俺には勝てない〉


 〈確かに…… しかし、それなら何故逃げる必要がある? 〉


 〈あぁ、此処にはテメェらよりずっと面倒で危険な連中がいるからだよ〉


 ウォルフの心底面倒臭さそうな顔に、それは一体誰だと問いかけようと口を開いた団長だったが、言葉を出す瞬間、ウォルフの頭上から雷鳴が轟き一筋の光が落ちる。


「ちっ! もう来やがったか!? コイツらの相手をしたかねぇから早く逃げたかったのによ!! 」


 紙一重で落雷を避けたウォルフが、忌々しく此方を睨んでくる―― 正確には魔法を放ったエレミアにだけど。


 ウォルフ相手では白百合騎士団には荷が重いと判断した俺は、アンネの精霊魔法で団長達の近くまで転移し、参戦する事に決めた。


「貴方を捕まえれば、あの赤いのを誘き寄せられるわよね? 」


「ゴーレムで暴れたかったけど、仕方ないか…… エレミア、ちゃっちゃと終わらせてお祭りに戻るわよ! 」


 ウォルフの相手を務めるのはエレミアとアンネ。俺は何時も通りサポートに徹するつもりだ。因みに、アンネが熱望したゴーレムだが、三メートル超えの巨体ではここでは却って邪魔になり戦いづらいので却下した。


「貴方達は!? どうしてここに? 」


「このウェアウルフは俺達が相手をします。団長さんとアルマさんはあのウェアウルフ二体を…… 勝手な事かと思いましたが、どうかご容赦下さい」


 突然現れた俺に、アルマは顔をしかめた。


「おい、いきなり来ておいて勝手な事を言うな。ワタシだってあの青い奴と戦ってみたいんだからよ」


「止せ、アルマ。彼等には何か策があるのだろう。王妃様がお認めになられた者だぞ? …… 分かった。騎士としては恥ずべき行為だが、貴殿を信じて任せる! 」


「ちぇっ、王妃様の名前を出されちゃ何も言えねぇな。あいつらで我慢するか」


 二体のウェアウルフへ向かっていく団長とアルマを確認してホッと安堵の息を吐く。このまま戦っていたら、例えウォルフを捕らえたとしても白百合騎士団の被害は大きかっただろう。それなら俺達がこうして戦った方がずっと良い。ここなら巻き込まれる人々も建物も無いから存分にやれる。


「今度はエルフと妖精が相手か? エルフの女には見覚えがあるぞ…… カリナを黒焦げにした女だな? 」


「そうよ。あんたじゃなくて赤いのと戦いたかったけど、こればかりはしょうがないわね」


「ウェアウルフだが何だか知らないけどね…… あたしの精霊魔法で舜殺じゃい!! 」


 エレミアは腰から蛇腹剣を抜き、風を纏うアンネがポキポキと指を鳴らす真似をする。対面には腰を落として臨戦態勢を取るウォルフが徐々に前のめりになっていく。


 ふぅ…… これから戦いが始まる時の緊張感は、どんなに体験しても慣れないもんだね。

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