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思いのほか白百合騎士団の実力は高いようで、下っ端とはいえウェアウルフと互角かそれ以上の戦いをしている。
そんな中、俺は別件で気になる事があるので別のハニービィからの映像を確認していた。
「どうしたの? 」
そんな俺の様子に気付いたエレミアが不思議そうな顔をする。
「いや、ユリウス陛下がウェアウルフに興味を持っていたから現場に来ている筈なんだけど…… あ、いたいた。あんな所にいたのか」
白百合騎士団の面々の厳重な警備の中で、ユリウス陛下が団長とアルマの戦いを興味深そうに見学していた。幾ら腕に自信があり、白百合騎士団に守られているからって、前に出過ぎなんじゃないですか? しかも何処かソワソワしているし……! もしかして自分も戦闘に参加したいなんて思ってないでしょうね? もし自ら戦いに出る事になったら、しっかりとマリアンヌさんに報告させて貰いますよ。
「あのウェアウルフ達なら、今のユリウスでも十分に通用すると思うから、そう心配しなくても良いんじゃない? 」
「確かにそうかも知れないけど、やっぱり他国の王を戦わせるのは…… ね? 」
幾らそれを本人が望んでいたとしても、殿下だった時とは違って今では責任ある立場にある。招いた側としては、無傷で自国へお送りするのが当たり前であり、国の威信にかかわる。
白百合騎士団の皆さんには悪いけど、絶対にユリウス陛下をウェアウルフと戦わせないよう上手く抑えて貰いたい。
〈斬っても斬ってもすぐに治りやがる。成る程、こんなのが他にも沢山いるとなればそりゃ脅威だな〉
〈王妃様からの情報によれば、心臓辺りに魔力結晶があり、それを破壊すれば死ぬらしい。しかし、我らの目的は生け捕りだ。さて、どうするか…… 生命力が強そうだからな、手足を切断しても死にはしないだろう。先ずはその機動力を奪い完全に動きを封じてから捕らえるとしよう〉
〈うへぇ…… 相変わらず敵には容赦無しだよな、ま、命令なら仕方ねぇ。恨むなら団長個人にしてくれよ〉
下っ端のウェアウルフと言えど、あの驚異的な再生力は備わっている。実力では上にある団長とアルマも苦戦しているが、それも時間の問題だろう。
もうこの戦いの先は見えている。それはウェアウルフも同じなようで、さっきまでの威勢が嘘のように失われていた。
〈こんな奴等に出くわすなんて、運が悪ぃな。強い体を手に入れたってのに、これじゃあコボルトだった時と変わらねぇじゃねぇか〉
〈しかもあの化け物が後に控えているし、私達が助かるのは絶望的ね…… どうする? このまま捕まって拷問されるより自害でもしてみる? 今の私達なら体に埋まっている魔力結晶を壊すだけで簡単に死ねるわ〉
これはヤバイ流れだな。彼等を追い詰め過ぎてしまったか…… ここで自害されたら折角の情報源を失ってしまう。
「あたし達も行っちゃう? 彼処までなら精霊魔法でひとっ飛びよ! 」
「そうね。前に見たライルの魔力支配であのウェアウルフ達の体を支配してしまえば、自害も出来なくなるわ」
確かにそうかも知れないが、アレはあまり使いたくないんだよな。何て言うか、生き物の尊厳ってのを踏み躙る極悪人になった気分になる。しかし、そうも言ってはいられない。本当に気が進まないけど、やるしかないのか……
団長とアルマ、そしてウェアウルフ二体がお互いに睨み合っている中にアンネの精霊魔法で割って入ろうとしたその時、上着の内ポケットに入っているマナフォンが震える。
通話ではなくてメールが送られて来たみたいなので確認してみると、送り主はシャロットだった。
そこには北地区にてウェアウルフに指示を出していた者を突き止める事は出来たが、その者を捕らえようと邸に向かったところ、自室にて死体で発見されたという。死体には何か爪で引っ掻いたように抉られた傷痕があり、自殺ではなく何者かに殺されたようだったと書かれていた。
…… は? それって、あのウェアウルフ二体の他にもインファネースに入り込んでる奴がいるって事か? もしそいつが俺の家にいる国王様に気付いて襲って来たら、国王様だけでなく母さん達も危険だ。
『ここは二手に別れましょう。私が我が主のご家族をお守り致します』
『む!? ヴァンパイア一人に任せるのは些か心配であります。じぶんも向かいます! 守りならこのオルトンにお任せを!! 』
魔力収納の中から、俺の視覚を通してメールの内容を確認したゲイリッヒとオルトンが名乗りを上げてくれた。この二人なら安心だな。早速俺はアンネに頼んで二人を家に送る。
「いったい何体インファネースに入り込んでいるのかしら? この爪痕のようなものって、たぶんウェアウルフよね? 」
「あぁ、しかも隠密能力はあの二体よりも高そうだ。もしかしたら、最初に出会った三体の内の誰かかも…… 」
「それならあの赤い奴だったら良いわね。次こそ確実に仕留めてみせるわ」
「今度はあたしにもやらせなさいよ。たまにはゴーレムを動かさないと錆びちゃうからね! 」
既の所で逃してしまったのが余程悔しかったのか、エレミアがやる気を漲らせていた。アンネは…… ただ単にゴーレムで遊びたいだけだろうな。