表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
793/812

41

 

「もう相談は済んだか? 」


 今まで黙って様子を見ていたギルがそう声を掛けると、ウェアウルフは犬歯を剥き出しにして笑みを浮かべる。


「へっ、待っててくれるとは随分とお優しい事だな! そのむかつく余裕も、すぐに無くしてやるよ!! 」


 声質からして恐らく男のウェアウルフの肉体に流れる魔力に動きがあった。その流れには視覚えがある…… 何かしらの魔術を発動したな? 周囲に変化が無いことから、たぶん身体強化のような自己完結型の魔術だろう。


「てめぇらの相手は、俺一人でも十分だ! 」


 先程とは比べ物にならないくらいのスピードで一気に距離を詰めてくるウェアウルフに、突然のパワーアップに驚いたギルは一呼吸分反応が遅れてしまった。その僅かな隙にウェアウルフの爪が襲い掛かり、ガードしたギルの両腕に引っ掻き傷をつける。


「今だ! 行け!! 」


 その声を聞き、女のウェアウルフがギルとゲイリッヒに背を向けて走り出す。当然このウェアウルフも自己強化の魔術を発動させているようで、その動きは一段と速い。


 ゲイリッヒが後を追おうとするが、男のウェアウルフに行く手を阻まれてしまう。


「おいおい、お前らの相手は俺だ…… よそ見なんかしている場合じゃねぇぜ? 」


 自分の命を賭けてギルとゲイリッヒの足止めに専念し、稼いだ時間で女のウェアウルフが街中で可能な限り暴れるつもりなのだろうがそうはさせない。


『テオドア! 』


『おうよ! 魔力を借りるぜ、相棒!! 』


 姿を消してウェアウルフの側に潜んでいたテオドアが現れ、己に刻まれた魔術を発動させ、魔力で構築されている体を雷へと変化させる。


 バチバチと明滅するテオドアが、光の速さで女のウェアウルフへと突っ込んでいく。いくら強化されていてもその速さの前では、然しものウェアウルフでも逃げ切れない。


「キャアァァ!!! 」


 雷となったテオドアの体当たりを食らったウェアウルフは、女性らしい悲鳴と共に体を痙攣させる。


「あんなのアリかよ…… 」


 それを見た男のウェアウルフは堪らず呟く。最後の意地を見せ付ける予定が完全に阻止されてしまっては、茫然としてしまうのも無理はない。それが例えギルとゲイリッヒを相手にしている最中でも……



 震えるマナフォンに王妃様からの ―― 準備は完了しているから何時でも大丈夫―― というメールを確認した俺は、ギルとゲイリッヒ、テオドアの三人に魔力念話で合図を送り、離れている二体のウェアウルフの間の空間に転移結晶を魔力収納から取り出して発動させる。


 突如として空間に現れた穴に戸惑う男のウェアウルフを、ギルは無理矢理に腕を掴んでハンマー投げの要領で振り回す。一方、テオドアによって全身が痺れてしまった女のウェアウルフだが、今度は暴風と化したテオドアに吹き飛ばされる。


 女のウェアウルフが何の抵抗も出来ずに空間の穴に入っていくのを見計らい、ギルが振り回していた男のウェアウルフを投げ入れる。


 一応抵抗しようともがいていた男のウェアウルフだったが、ギルの腕力と暴力的な遠心力によって動きが阻害され、成す術なく穴の向こうへと飛んでいく。


 ふぅ…… これで俺達の仕事は終わった訳だが、この先が気になるので、ギルとゲイリッヒ、テオドア、それとムウナを魔力収納に戻ってもらい、俺とエレミアとアンネの三人で後を追う。勿論、アンネの精霊魔法で少し離れた場所に転移した。そうしないと白百合騎士団の皆さんの邪魔になるからね。



 そうして追い掛けた先には、まだ事態を飲み込めていないウェアウルフ二体を囲む白百合騎士団の姿があった。テオドアでは騎士団にバレると後々説明が面倒なので、ハニービィに偵察を頼み様子を窺う。




 〈な、なんだ? ここは…… 街の外か? 〉


 〈うぅ、まだ少し体が痺れる感覚がするわ…… ん? ちょっと、何よこの人間達は! 〉


 穴を抜けた先には、事態を把握しきれていないウェアウルフ二体が、馬に乗った白百合騎士団に完全包囲されている光景が目に入ってきた。


 お揃いの白銀に輝く騎士鎧を身につけている女性達の中で、一際威厳のある風格を持つ女性が剣を抜き、その剣先をウェアウルフへと向けた。


 〈貴様らは完全に包囲されている。諦めて降伏するのなら、此方も法に従い捕虜として丁重に扱うと約束しよう。しかし、抵抗の意を見せるのなら、それ相応の覚悟をして貰うぞ? 〉


 馬上から一方的に降伏勧告を行う女性騎士に、ウェアウルフの顔を苛立ちで歪んでいく。


 〈舐めるなよ、人間め…… 貴様らに捕まるくらいなら戦って死んだ方がましだ!! 〉


 威嚇する男のウェアウルフに、女のウェアウルフがこそこそと何かを伝えている。今テオドアは魔力収納にいるので何を話しているのか分からない。何だか心なしか男のウェアウルフの顔に余裕が戻っているような?


 〈降伏する気はないと? ならば力ずくで拘束させて貰おう〉


 〈やってみろ…… いくら数を揃えても無駄だって事を思い知らせてやるよ! 〉


 さてと、取り合えずはこのまま様子見して白百合騎士団のお手並み拝見といきますか。不測の事態に備えて距離を置いて待機する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ