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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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 倉庫内に充満する魔力に、ウェアウルフの二人は警戒を強めてギル達に威嚇している。その隙に俺は倉庫にある木箱を全て魔力収納へと入れた。


 恐らく箱の中身は他国からの貿易品だろう。ギル達とウェアウルフの戦闘で壊れてしまっては、後でへバックに何を言われるか分からないからね。


「これがあの人間の力か…… へっ、態々暴れやすくしてくれるとは有り難いね」


「強がっているのがバレバレよ。まぁ、こんな魔力を見せ付けられたら誰だってビビるけど…… 」


 どうやら桁外れの魔力量にウェアウルフがたじろいでいるようだ。これが逆の立場だったならと考えると、彼等を嘲笑うなんて出来ない。むしろ良く心が折れないものだと感心するよ。


『三人とも分かっているとは思うけど、俺達の仕事はウェアウルフを倒す事でも捕らえる事でもない。白百合騎士団が待つ第二防壁まで奴等を転移させれば良いから、無茶な戦いは控えて欲しい』


『承知致しました、我が主よ。お任せ下さい』


『フン、そんな事は今更説明しなくとも分かっている』


『そんじゃ、俺様は魔術を使わずに嫌がらせに徹底するか! 』


 改めて目的を再認識している所に、ウェアウルフ二体が先に仕掛けて来た。


 もう見た目ではどっちが男か女か分からないが、どちらも並外れたスピードでギルとゲイリッヒにその鋭く尖った爪を振り下ろす。


 それをギルは難なく躱し、ゲイリッヒはわざと体に受けては傷口から吹き出る血を弾丸状に変形させて襲ってきた二体へ反撃に出る。


「うぉっ!? これだからヴァンパイアと戦うのは面倒なんだよ! 迂闊に攻撃も出来やしねぇ!! 」


「ちょっと! こっちまで巻き添えにするの止めてくんない!? 」


 どうにかゲイリッヒの反撃を避けた二体は、まだ余裕があるようで、お互いに悪態をつく。


『ふむ、ライルよ。どうやらあのウェアウルフは我らが警戒していたような強さではないな』


『ギルディエンテの言う通り、初めに出会ったあの三体に比べると弱いですね。それでも普通の人間に対してはあの速さが脅威になるのは変わりませんが』


「やっぱりね…… 私もあの赤い奴と比べて遅いと思ったわ」


 成る程。実際に対峙したゲイリッヒとエレミアがそう言うのだか間違いないだろう。やはりあのウェアウルフ達は特別で、今戦っている灰色のがウェアウルフの標準的な実力なのか。ゲイリッヒやムウナが苦戦していた相手をよく裏ギルドが捕まえる事が出来たと驚いたけど、それなら納得だな。


「くそっ! うろちょろと目障りな奴だ! 」


「魔力を吸われるのが地味に痛いのよね」


 おっと、余計な事を考えている間にも戦況は刻一刻と変化していく。今はテオドアが宣言通りにウェアウルフへ嫌がらせをしている最中だ。姿を消して死角から忍び寄っては魔力を奪うテオドアの戦法は、本当に厭らしくて鬱陶しい。まるで彼の性格をそのまま表したかのような戦い方に、思わず味方であるのにも関わらず自然と眉間に皺が出来てしまう。




 状況は此方が有利ではあるが、此処で戦闘を長引かせたくはない。何時彼等が街中へ飛び出し、祭りを楽しんでいる人々に襲い掛かるか分からないからね。白百合騎士団の人達も待っているだろうし、早目にウェアウルフを転移させないと。


『ギル、ゲイリッヒ。今から転移結晶を発動させるから、どうにかしてあの二体を空間の穴に押し込めて貰いたいんだけど、大丈夫? 』


『それくらい造作もない』


『えぇ、私も問題ありません』


 取り合えず王妃様のマナフォンにメールを送って、王妃様の方から待機している白百合騎士団へ、もうすぐ転移予定地へウェアウルフを送ると報せてからだ。


『なぁ、俺様は? 』


『ん? あぁ…… テオドアは、このまま存分に嫌がらせの続きを楽しんでくれ』


『それなら大得意だぜ!! 』


 良し、メールも送ったし後は王妃様からの返信が来たら転移結晶を発動するだけ。ギルとゲイリッヒにはその間ウェアウルフがこの倉庫から出ないよう抑え、発動した転移魔術に彼等を押し込んで貰う。後は白百合騎士団の人達にお任せだな。



 〈分かってはいたけど…… こんなにも実力差があるなんて、ね…… 悔しいけど、私達じゃ勝てる要素が何一つ無いわ〉


 〈ハァ…… ハァ…… せめて街の人間共に俺達の恐ろしさを心に刻んでやろかと思ったが、ここから出るのにも一苦労だぜ…… おい、俺が時間を稼ぐ。その間にお前は街へ行って一人でも多く人間を殺せ。すぐに追い付かれるだろうが、死ぬその時まで殺し続けろ〉


 〈最後の意地って奴ね…… 良いわよ、やってやろうじゃない〉


 俺達に聞こえないよう話しているようだが、姿を消して側まで近寄るテオドアの耳を通じて筒抜けだよ。それにしても何て恐ろしい事を考えてるんだ? そんな事になってしまってはせっかくの楽しい祭りが台無しだ。


『テオドア、そのまま姿を消して潜み、ウェアウルフの女の方が動き出したら、一気に魔力を吸収して行動を阻害してくれ』


『それは良いけどよ…… どっちが女だ? 同じ狼の顔してっから分かんねぇよ』


 確かに。えっと…… ギルとゲイリッヒから離れる動きを見せた奴の邪魔をすれば間違いは無いだろう。そういう方向で一つ頼むよ。

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