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「う~い、到着っと…… んで? これからウェアウルフの所へ向かえば良いんだっけ? 」
「あぁ、へバックさんからのメールでは港近くにいるらしいから、取り合えず行ってみようか。まだ本当に相手が俺の姿を見て距離を取ろうとするか分からないからね」
アンネの精霊魔法で東商店街にある人魚の店近くまで転移してウェアウルフの下へ向かおうとした時、魔力収納からエレミアが出てきては周囲の警戒を始める。
「ウェアウルフがいると思われる所には不自然な空間がある。それなら、ライルと同じく魔力を視認出来る私もいた方が良いんじゃない? 」
まぁ、確かに…… 俺からは何も異論は無いので反対する理由はないな。等と納得していると、今度はテオドアまでも魔力収納から出てきた。
「なぁ、相棒。俺様なら気付かれずに側まで行けるからよ、魔力を繋げておけば、魔力念話で奴等の会話や反応が分かるぜ? 」
なるほど、いくら妖精が飛び交うインファネースでも、ウェアウルフの周りにだけ集まっていたらその内怪しまれてしまう。なので時には遠くから監視する必要もあり、その場合彼等がどんな会話をしているのか盗み聞く事は出来ない。
しかし姿を消せるレイスのテオドアなら、怪しまれず常に会話が聞こえる距離を確保しつつ尾行ができ、もし気付かれて反撃にあったとしても、レイスは基本物理攻撃は無効なので直ぐにやられる心配はない。
「じゃあ、お願いしようかな? 妖精にウェアウルフまでの案内を頼むから、着いたら魔力念話で連絡をしてくれれば、それを頼りに俺達も近くまで向かうよ」
「おぅ! 任せろ!! 最近やる事なくて暇だったからな」
余程退屈していたのか、テオドアは生き生きとした表情で定期的に報告しに来ている妖精に案内され飛んでいった。死んでいるのに生き生きとはこれ如何に……
「ねぇエレミア、あたし達は予定通り行くのよね? 」
「はい、先ずはウェアウルフの姿が見える距離まで行き、わざと奴等に見付かります。その後の反応でそれからの対応が決まると、王妃と話し合っていましたね」
「ん? そうだったっけ? あんまし聞いてなかったから分かんないけど…… とにかく、今来ているウェアウルフをとことん追い詰めれば良いんでしょ? 楽勝よ! 」
アンネとエレミアがあまり緊張感のない会話を交わしながら、俺達は祭りを楽しんでいる風を装い、自然な足取りを意識しつつ人間に擬態し上手く紛れているウェアウルフへと足を進めていく。
「おっ! 塩焼きそばだってさ! ちょっと買ってかない? 」
「いや、遊んでいるようだけどそうじゃないんだぞ? 時間もそんなに無いんだから我慢してくれないか? 」
「えぇ~…… っていうかさぁ、あたし達は普通に祭りを堪能しているって思わせなきゃならないんでしょ? なら、屋台料理の一つや二つ買ってないと不自然だよ! 祭りなのに食べ歩きをしないなんておかしい!! 」
「言いたい事は分からんでもないけど…… どうしてそこで焼きそば? もっと食べ歩きに適した物を買わない? 例えば、たこ焼きとか串焼きなんか歩きながらでも食べやすくない? 」
「別にそれでも良いよ! 」
結局食べたいだけで料理は何でも良いんだな。しかし、周りの人達も手にはジュースやわたあめ、リンゴ飴、カップに入った唐揚げ等、何かしら手に持っているのを見掛けるので、アンネの言い分も強ち間違いではない。
「あと、適当に遊ぶのも効果的なんじゃない? ほら、丁度よくあそこに的当ての屋台があるよ? 」
流石にそこまでしている余裕はないので、その提案は問答無用で却下した。
途中で購入したたこ焼きを頬張り、口の周りを青のりで汚すアンネが反論してくるが、全然説得力がない。演技とか振りじゃなくて本気で遊びたいだけだってのが全身から滲み出ているよ。
時刻はもうすぐ夕方、まだまだ人が多くて流れに沿って歩くしかないので、思うようにウェアウルフとの距離が縮まらないな。相手も移動しているし、何処かで足止めでもしてもらわないと追い付けないかも知れない。
この東地区に出ている屋台の殆どはへバックの傘下にある商会の者が行っている。俺はメールをへバックに送り、どうにか彼等の注意を引いて少しでも足止めするように頼んだ。普通の者では人間に擬態したウェアウルフを見分けるのは不可能に近い。なので、妖精達に頼んで誰がウェアウルフなのか、一つの屋台に一人の妖精がつき、ウェアウルフが近づいてきた場合、連絡係りの妖精が伝えるようにしている。
「もぅ! さっきから絶えず飛び回ってるからいい加減疲れちったよ… 誰か交代してぇ~ 」
と、連絡係りの妖精達が文句を言っていたが、女王であるアンネの指示には素直に従ってくれている。無事にこの問題が解決した際には、妖精達には何かお礼をしなくてはならないな。
『相棒、見付けたぜ。今姿を消してすぐ側までいる。何か普通に観光してる感じだな』
どうやらテオドアがウェアウルフを捉えたようで、魔力念話での報告が来る。後はテオドアと繋がっている魔力を辿れば自ずとウェアウルフへと着くだろう。