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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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36

 

「それでは、次の案ですが…… 転移魔術を駆使してウェアウルフを第二防壁近くまで送り、そこで確保もしくは討伐します。都合が良い事に、陛下の帰還用である転移結晶がありますのでそれを利用したいと思います」


「そちらの方が私が囮になるより安全だろうが、そう素直に移動してくれるとは思えんな。人間に紛れるぐらいなのだから、知能もそれなりに高いのだろう? そんな見え透いた罠に掛かるだろうか? 」


 国王様の言う通り、ただ目の前に転移魔術を発動させたとしても、あのウェアウルフは素通りして終わるだろうね。


「えぇ、だからこそ皆さんの力をお借りしたいのです。ウェアウルフを追い詰め、転移しなくてはならない状況を作り出したいのです。彼等はまだ私達がその存在に気付いていないと思っている筈。暗殺を狙うならば目立つ行動は避け、正体を隠そうとする。そこを利用すれば上手く誘導する事が可能でしょう」


「しかし、どの様にして誘導するおつもりなのですか? 」


 ウェアウルフを追い詰めるにしても、大前提に彼等へ危機感を煽る者じゃないとその作戦は成立しない。そもそもあのウェアウルフ達は俺達の事を知っているのかも怪しいのに、どうやって追い詰めて行くと言うのだろうか?


「あの喫茶店での事がどうにも気になっていまして…… ライル君が妖精に協力してもらって聴いたというウェアウルフの会話なのですが、急に切り上げて席を立った風に感じます。何処か焦っているようにも思えました。ライル君の話ではまだ食事の途中だったとか? 急いで店から出なければならない事でもあったのでしょうか? 」


 言われて見れば…… 確かに途中からデザートを食べるペースが上がり、食べ終わると直ぐに席を立って店から出ていったな。あの時は祭りを楽しもうとしているのかと思っていたけど、そう指摘されると怪しく思えてくる。


「ライル君達は一度ウェアウルフと出会っていますので、その情報が共有されていてもおかしくありません。恐らくですが、彼等はライル君に気付いて席を立ったのではありませんか? この事により、如何に彼等がライル君を警戒しているかが分かります。貴方がウェアウルフの存在に気付ける事を、彼等も知っている。だからライル君を見て離れて行った。この私の推測が正しければ、ウェアウルフを誘導する事は容易いかと」


 成る程…… え? という事は、俺が追い詰めていく役をするんですか?


「予想では、ウェアウルフ達は正体を隠そうとしてライル君から離れようとする筈ですので、危険はそうないと思いますよ? もし心配でしたら、私の白百合騎士団から何名か護衛として連れていっても構いません」


「いえ、お気持ちは有り難いのですが、私には心強い仲間が常日頃から側にいてくれいますので結構です。もし、私がウェアウルフを誘導する役を引き受けるとして、私自身は彼等に気付いていない風を装えば良いのですか? 」


「そうですね、そうして頂いた方がウェアウルフも逃げやすいでしょう。ライル君にはそうやって此方が指定する場所までウェアウルフを上手く誘導し、転移魔術で強制的に第二防壁まで転移させた後、予め待機させている白百合騎士団で包囲、捕獲ないし討伐を行います」


 それなら初めの案よりかは周りを巻き込まなくても済みそうだな。


 その後、王妃様から幾つか案を出してもらい、真剣に吟味、相談した結果、第二案が確実且つ安全だと判断し、これに決定した。






「では、時間もありませんので、直ちに始めましょう。ライル君がウェアウルフの下へ着き次第、決行となります。後は打ち合わせ通りにお願いします」


 細かな作戦について話し合い、時刻は既に夕方近く。国王様とユリウス陛下、マリアンヌさんが帰る時間が迫っている。彼等を安全に帰還させる為には、ウェアウルフを捕まえるか仕留めるかして脅威を取り除かなくてはならない。


「しかし、ユリウス陛下の事ですが…… 本当に宜しいのですか? 」


「本人(たっ)ての希望なのですから、致し方ありません。それに、国を取り戻す為に吸血鬼と戦ってきた経歴と実績がありますので、良い戦力にはなります」


 でも、一国の王を戦わせるというのもどうかと思うけどな。まだ納得出来ていない態度を見せる俺に、ユリウス陛下の手が肩にポンと置かれる。


「なに、噂のウェアウルフとやらの力をこの目で見て確かめたいだけで、無茶をするつもりはない。それに、暫く戦いから遠ざかってはいたが、そこまで鈍ってはいないさ。ディアナ王妃ご自慢の白百合騎士団と一緒だし、そう心配しなくても良い。ライル君はしっかりと自分の役目を果たしてきてくれ」


 マリアンヌさんも反対していないし、ここで俺がうだうだと言っても仕方ないか。


「分かりました。くれぐれも怪我の無いようお願いしますよ。他国の王を傷つけたとあれば、インファネースの評判に響きますので」


「ははっ、確かにそれは困るね。十分に注意しよう」


 そんな風に俺とユリウス陛下が話している所に、国王様が申し訳無さそうな顔をして近づいてきた。


「出来るなら私も共に戦いたい所だが、残念ながら私では足手まといにしかならないとディアナに言われてしまったよ。君らにばかり危険を押し付けてしまい、本当にすまない」


「いえ、狙われている本人の安全を確保するのは当然の事です。必ずや王城のご帰還を阻む輩を排除致します。こんな質素な部屋ではありますが、もう暫くお待ち下さい」


「うむ。そなたの忠義、しかと受け取った。武運を祈る」


 俺は陛下と王妃様達に見送られて部屋を出る。これから向かうはウェアウルフのいる東商店街。そこでは既に代表であるへバックが妖精達と一緒に監視しているとの事。到着次第、へバックのサポートを受けながらウェアウルフを誘導する予定だ。



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