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「成る程、今確認されているウェアウルフはその二人だけなのですね? 早急に調べないといけない所は、他の仲間の有無とその指示を送っている人物の正体と所在…… 私達をある程度監視出来る立場にいる者なら、それなりの地位がある貴族だと思われます。それに関してはレインバーク伯爵に調べるようマナフォンで伝えておきます。ライル君は引き続き妖精達にウェアウルフを尾行するようお願いします」
ウェアウルフの二人が店を出たのを見計らい、俺は陛下と王妃様達に状況を説明して今後の行動を相談する。
「しかし、ウェアウルフは隠密に長けているとは事前に報告を受けていたが、まさか同じ店にいるのにも気付けない程とは…… 予想以上に厄介。その隠密性で背後から刺されては一溜まりもない。そんなのをどうやって防げば良いのだ? 」
身近にウェアウルフの驚異に触れた国王様が、難しい表情で腕を組んでは苦々しく唸りをあげる。
確かに、あそこまで気付かれないんじゃ、暗殺し放題だと思われるが、ギルの話ではそんなに都合の良いものではないらしい。
『前に三体のウェアウルフと戦った時を思い出してみろ。何故奴等は態々我らに姿を見せ、擬態から本来の姿へと戻ったのだ? 我が思うは、あの人間に擬態している状態では戦う力まで制限されているのではないか? それに、あの優れた隠密性を維持するには相当厳しい条件があると見た。恐らくだが、ほんの少し殺気を出しただけで崩れてしまうものなのだろう。だからあの時も隠れたまま死角から攻撃を加えるではなく、正面から戦いを挑んだのだ。いくら気付かれにくいとは言っても姿までは消せない。少しの変化や認識で、その存在はすぐに明るみになる。そう恐れるものではないやも知れぬぞ? 』
「―― と言う事らしいですよ? 」
ギルの言葉をそのまま伝えてはみたが、それでも国王様の顔色は晴れないご様子。
「ライル君の言っていた事が正しくても、どのみち殺そうとする瞬間まで誰にも気付かれずに接近を許してしまうのでは? そのまま寝込みでも襲われでもしたら、確実に暗殺は成功してしまう」
おっと、今度はユリウス陛下が渋い顔をしておられる。まぁ、どんなに条件が厳しかろうと殺りようは幾らでもあるという事で、尚更危険度が跳ね上がる。
「これはウェアウルフへの対策を優先的に考えないといけませんね。結界も効かないとなると…… 単純に物理的な罠を仕掛けるしかありません。あの状態のウェアウルフは色々と身体能力が制限されているのですよね? それなら普通の罠でも効果はあるのではないでしょうか? 」
「確かに、魔法や魔術の効果が見込めないなら原始的な罠が有効であるやも知れぬ。しかし、私の部屋に落とし穴でも掘る気か? それはそれで物騒だな。そんな所で休めるだろうか…… 」
自分の部屋に致死性の高い罠があるなんて、俺なら絶対眠れないね。だけど、今の所それしか有効な手段がないのも事実…… う~ん、結界や探知系の魔術に引っ掛からないだけで、魔術自体効果が無い訳では無いんだよな?
まぁそれは追々考えるとして、今はウェアウルフの追跡に集中しよう。幸いにも、奴等は国王様がまだ北地区にいると思っている。しかも、俺達の方が先にウェアウルフを見つけ出した事で、イニシアティブが取れたのも大きい。
尾行には複数の妖精達が行ない、常にウェアウルフから目を離さないようにしている。誰か一人でも認識していれば、他の誰かが目を離して見うしなったとしてもリカバリーがきく。そして今も連絡係りの妖精がアンネへ報告しに飛び回っている。
「あいあい、ご苦労さん。引き続きよろしくね~…… 今の所ただ祭りを見て回ってるだけだってさ。何処かに向かっている様子はないみたいね! てな訳でプリンのおかわりだ!! 」
どんな訳かはさて置いて、あのウェアウルフ達はまだ動くつもりはないという事か。
「ユリウス陛下、マリアンヌ王妃。遠路遥々来て頂いたのに、この用な面倒事に巻き込んでしまい申し訳ない」
「いえ、王になれば敵が増えるのは仕方なき事。父王の後を継ぎ、その苦労が漸く理解してきた所です」
「私はこのインファネースに来て十分に満足致しております。とても素敵で魅力溢れる街ですね。独立してもしなくても、末永くお付き合いしたいものです」
国王の謝罪を、ユリウス陛下とマリアンヌさんは笑顔で快く受け取った。不満どころか同情的な様子に、国王は苦笑いである。
「そう言って頂けると私も幾分か心が軽くなる…… それで、これからどうする? ウェアウルフを見付けたからには無視して祭りを楽しめるとは思えんが? 」
国王に問われ、王妃様は沈黙し考えに耽る。
「そうですね…… 妖精達が追跡しているとはいえ、このままにしておくのもどうかと私も思います。出来れば仲間の有無を確認したくはありますが、それで逃げられてしまっては元も子もありません。だからと言って今北地区に戻るのも危険です。ここはライル君の家の一室を臨時対策室としてお借りして、ウェアウルフを捕獲、難しければ討伐する方向で動きましょう」
「えっ、私の家、ですか? 」
何か問題でも? とでも言いたげな目線を王妃様に向けられた俺は、ただ黙って了承するしかなかった。