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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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33

 

 さて困った……


 陛下と王妃方が祭りを楽しんでおられるのは良い事なのだが、国王様がウェアウルフに狙われているのを忘れてはならない。最大限の警戒と、強襲された時の対処を前以て何度も頭の中でシミュレートしてきた。


 魔力収納に待機している皆とも連携が取れるよう話し合い、万全な状態で今俺達は護衛をしているというのに…… アホらしくて何だか頭が痛くなってきたよ。


 どうして俺がこうも頭を抱える羽目になってしまったのか……


 あの後、南商店街から西商店街へと移動して妖精達がいる喫茶店へと来店して各々飲み物とデザートを頼み、そのおこぼれを貰おうと妖精達が集まり出し、瞬く間に妖精に囲まれ喜ぶマリアンヌさんを見て、ユリウス陛下も優しく微笑んでいた。


 美女が妖精に囲まれるという、まるで一枚の絵画のような光景に思わず見とれてしまうのは仕方ない。しかし、店にいる誰もがその存在に気づいてはいなかった。王妃様とプリンを食べているアンネも、魔力収納にいるギルやバルドゥイン、ゲイリッヒでさえ気にも止めない。


 俺達が店に入る前から既にいたのか、それとも後から来たのかは分からないが、その存在に気付けたのはちょっとした違和感からだった。


 祭りで屋台が沢山が出ていても、この喫茶店はほぼ満席に近い状態が続いている。それなのに、人の魔力に溢れるこの店で、とあるテーブルだけポツンとまるで穴が空いているかのように何もないのだ。勿論それは魔力だけを視てそう思っただけで、実際に肉眼で確認すれば、ちゃんと客が席に座ってケーキを食べていた。


 そこでまた不可解な事に気付く。あのがめつい妖精達が、あそこの男女の客がいるテーブルにだけ近付こうとしないのだ。最初からそこには誰もいないかのように素通りしていく。


 俺も今この目で見ているのにも関わらず、あの二人の顔に靄が掛かったかのように見えて記憶に残る事なく、頭から消えていってしまう感覚にうすら寒いものを覚える。


 間違いない、あれはウェアウルフだ。まさかこんな簡単に見付かるとは…… というか、あの二人は何をしているんだ? 普通にケーキを旨い旨いと食べている姿に、真面目に暗殺する気あるの? と声をかけそうになる。それぐらいあのウェアウルフの二人が呑気に寛いでいた。


 さて…… この場合どうする? 店に迷惑が掛かるけど此方から仕掛けるべきか、それとも向こうはまだ俺達―― というより暗殺対象である国王様にはまだ気づいていない。なら、ここにいる妖精達にお願いして奴等の後をつけ、まだいるかもしれない仲間まで案内させるか、それともとにかく一人は確保して色々とお話を伺うか、だよな。


『ふむ、言われるまで我も気付けなんだ。しかし、一度認識してしまえば問題ない』


『前に戦った者でしょうか? 私もこの魔力収納から見ていたのに、どうしても獣姿の方ばかり思い出してしまって、肝心の人間の姿はあまり記憶に御座いません』


 ギルとアグネーゼが言うように、人間へと擬態しているウェアウルフは驚くほどに影が薄い。魔力が視える俺だからこの違和感に気付けたのであって、妖精達が見つけられないのも無理はない。しかし、一度認識さえ出来れば目を離さない限り見失う事はない。逆を言えば、少しでも目を離してはいけないという事だ。俺はアンネから妖精達へあの二人を監視するように頼み、様子を見る。


 だけど、てっきり人目のつかない所で潜み、国王暗殺の機会をじっと窺っているものとばかり思っていたが、こうも白昼堂々店でケーキを食べているなんて…… 何だかなぁ。


 周囲の人達に溶け込んでは談笑している二人が、まさか魔物だとは誰も思えないだろう。


 妖精の一人に魔力を繋ぎ、あの二人がどんな会話をしているのか聞いて来て貰ったのだが……


 〈甘いな、こんな甘い食い物があるなんて初めて知ったよ。人間ってのは良くもまぁ色々と作るもんだ〉


 〈はぁ…… 仕事じゃなかったらずっとここで暮らしていたいわね。何で私達がこの国の王を殺さないといけないのよ〉


 〈仕方ないさ、そういう契約なんだからよ。俺だって人間に使われるのは嫌だけど、ボスの決定に逆らう訳にはいかないだろ? 〉


 〈そうね…… それにしても、同じ国の人間同士で足を引っ張ったり、殺し合ったりしてさ、人間ってのは利口なんだが馬鹿なんだが分からないわね〉


 〈んな事よりそろそろ行くぞ。あの人間が言うには王はまだ北地区から出てないようだしまだ時間はある。俺達は暫くこの祭りでも回ってようぜ〉


 ウェアウルフの二人は徐に席から立ち上がり、ちゃんと代金を払って店から出ていった。店員も彼等から声を掛けられるまで、その存在をすっかり忘れていたみたいで、ハッと思い出したかのようなリアクションをしていたな。


 しかしあの会話を聞くに、どうやらウェアウルフ達は王への暗殺にあんまり乗り気ではなさそうだ。というより人間に扱き使われるのに納得していないご様子。余りにもやる気のない態度に此方も気が抜けてしまいそうになるのをグッと抑え、妖精達に彼等の追跡を頼んだ。


 確か、あの二人は何処かにいる人間から指示を受けているような事を言っていたな。しかも王の行動をある程度監視出来る立場の人間だ。ウェアウルフだけを排除しても良いが、その人間を捨て置くと後々面倒な事になりそうだし、出来れば捕まえたい所ではあるね。まぁ、その辺は国王様と王妃様に要相談だな。

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