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腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
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 ユリウス陛下、アリアンヌさん、ディアナ王妃、マルシアル陛下の四名には目立たない服装へと着替えて貰ったが、その身から醸し出す高貴なオーラは隠しきる事は不可能。ちょっとした動作一つ一つが一般の者と比べて全然違う。それでも、まさか自国と他国の国王と王妃が変装してまで祭りを回るとは思わず、せいぜい何処ぞの貴族が御忍びで出掛けている程度にしか見えないだろう。


 念のため、国王様達が領主の館から出た所を見られないよう、地下に設置してある転移門にて、一旦南商店街にある俺の店へと移動してもらい、そこから各商店街を回る予定だ。


 領主とシャロットに見送られ、さぁこれからインファネースの祭りを楽しんで貰おうと思った矢先、すぐに予定は狂ってしまった。転移門で移動した先、地下に広がる他種族達の市場に国王様とユリウス陛下、マリアンヌさんの三人が興味津々で暫く市場見学をしていたため、大幅に時間が押してしまった。


 お忙しいユリウス陛下とアリアンヌさんには時間がなく、今日しかインファネースにはいられない。加えて国王様も本日城へと戻らなければならず、時間はカツカツである。


 地下に並ぶ人魚、ドワーフ、エルフ、天使の出店や彼等の取引現場を両陛下は真剣に視察していた。


「成る程、これは興味深い。人魚には海水から塩を作り出す術があり、漁も得意。エルフは野菜と薬作りに長け、ドワーフは鍛冶以外に建築も優れているのか。それと天使はシルク生地を生産し取り引きに使っている。四つの種族が各々の足りない物を補えるようになっておるようだ。これなら今まで人間と関わろうとしなかったのも頷ける」


「彼等は神々から世界の管理を任された種族。人間の手を借りずとも良いように出来ているのでしょう。一部ではありますが、こうして集っているのが奇跡に近い。それをなし得たライル君はやはり凄いですね」


 他種族から話の中で必ず俺の名前が上がるのを聞き、ユリウス陛下からの評価がうなぎ登りだ。皆、頼むから話終えた側から俺に良いこと言っただろ? というような顔を向けないでくれませんかね?


 いや、良かれと思ってそういう事を言ってくれたのは分かるよ? でもさ、皆して俺の活躍を五割増しぐらい盛って話すもんだから何処かわざとらしいというか、嘘臭いんだよ。それにものすっごく恥ずかしいから止めてほしい。


「フフ…… 本当にライル君は他種族から頼りにされているわね」


「あったり前っしょ! ライルがいなけりゃ、あと千年くらいはお互いに交流なんかしようと思わなかったんじゃない? どの種族も与えられた使命以外は興味を持とうともしなかったから。特に千年前の事が原因で、元からあった人間への不信が更に大きくなっちゃってさぁ…… もう自分の種族以外信用できるか! ってな感じでピリピリしちゃってまぁ大変だったんだよ? 」


「此処を見ていると、とてもそんな経緯があったなんて思えないですね」



 王妃様方はアンネの話で盛り上がり、この地下市場だけでかなりの時間が取られてしまった。


 それからやっと俺の店へと上がって来たのは良いが、そこでもユリウス陛下の足が止まる。


「ここがライル君の店か…… 落ち着いた良い雰囲気の店だね」


「有り難う御座います。ユリウス陛下に気に入ってもらえたようで光栄の至り。では、お時間もそうありませんので私の店はこのくらいにして、インファネースの街並みと祭りを見て回りましょうか」


「まぁ、そう急ぐ必要もない。ここは余裕をもって行動しようじゃないか。ここの所ずっと時間に追われた日々を過ごしてきたんだ。今日ぐらいは自由にさせてほしい」


 そんなユリウス陛下に、国王様も同意するように頷く。やっぱり王様ってのは随分とお忙しいみたいだし、それで満足するのなら好きにさせてみるか。色々とプランを考えてはきたけど、全部無駄になりそうだな。


 ユリウス陛下と国王様に母さんとシャルル、キッカを紹介し、店の裏口から外へ出る。


「ほぅ…… 随分と活気があり、とても魔王と膠着状態だとは思えないな」


「いや、膠着しているからこその余裕であるとも言える。これが激戦の最中であったなら、今年の祭りは中止していたであろう。このどちらも動けない時間を利用して、人々の不安を少しでも和らげ、連合軍の英気を養う良い機会でもある」


「だから軍の兵士も良く見掛けるのですね? 四六時中戦えと言われれば出来ない事もないが、それでは心が疲弊し良い結果に繋がらない。適度な休息は必ず必要となる。戦争が長期化するのなら尚更…… おや? あれは何かな? 」


 さっきまで真面目な話をしていたユリウス陛下だったが、気になる屋台を見付けたのか、迷いない足取りで近付き、両手にホットドッグ持って帰ってきた。当然、一個はマリアンヌさんの分だ。


「…… うん、流石はトルニクス産の肉なだけあってこのソーセージは旨いな。それにパンに挟むというのも面白い発想だ」


「それだけじゃありません。このケチャップとマスタード? が肉の味を一段と引き上げてくれています」


 その後もユリウス陛下達は、様々な屋台を見て回った。珍しい食べ物の屋台に興奮し、土産品であるガラス細工を売っている屋台ではマリアンヌさんの部屋に飾る品を熱心に吟味し、遊戯の屋台では真剣に遊んでいた。


 途中、中央広場の特設ステージにて行われる剣舞と他所から来てくれた大道芸人によるパフォーマンスを御観覧していただき、時刻は既に昼を過ぎた頃、近くの屋台で焼きそばとお好み焼きを食した陛下達は、次なる目的地である西商店街名物の喫茶店へと向かう。


 だいぶ楽しんでおられるのは良いのですが、ウェアウルフの存在を忘れてはいませんよね?

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