31
「ようこそ、ユリウス陛下とアリアンヌ王妃。新しきサンドレア王を我が国にお招き出来た事を嬉しく思う」
「此方こそ、お招き頂き光栄の至りに存じます。前からインファネースには何時か足を運びたいと思っておりましたので、とても楽しみにしていました」
両陛下が挨拶と握手を交わし、マリアンヌさんとディアナ王妃様もお互いに笑顔で対応しているのを俺は一歩下がって見ていた。
「そうだ、紹介―― は、しなくても大丈夫ですかな? 今回、私達の護衛をしてくれるライル君だ。確か、お互いに見知った仲だと聞いているが、相違いありませんか? 」
国王様から水を向けられた俺は、ユリウス陛下とアリアンヌさんに頭を下げる。
「お久しぶりです、ユリウス陛下にマリアンヌ王妃。御壮健なようで何よりで御座います」
「そうか、君が護衛を務めてくれるなら此方も安心出来るというもの。マリアンヌ共々、よろしく頼む」
思っていたよりユリウス陛下からの信頼が厚くて、更に責任が重くなった気がして笑顔が固くなる。
「さぁ、ユリウス陛下もマリアンヌさんもお疲れでしょう? 少し休憩してから町を見て回りませんか? 」
「そうですね。転移魔術のお陰でだいぶ快適でしたので疲れは殆どありませんが、せっかく用意して下さったのですから、有り難く頂戴致します」
その後、領主とシャロットにも挨拶を交わしたユリウス陛下とマリアンヌさんは、国王様達と同じテーブル席に着いた。そして運ばれてきた紅茶と焼き菓子に手をつける前に、真剣な顔で口を開く。
「貴国には、ヴァンパイアから国を取り戻す際や復興に関しても、多大なる助力を頂いた事に大変感謝しております。この場を借りて、もう一度御礼申し上げます」
「いや、此方も大した事は出来ずにすまなかった。サンドレアが再び平和な国へと戻るよう支援していく所存。まぁ、近い将来王国はどうなるか分からず、これからは国ではなくインファネースからサンドレアへという事になりそうですがね」
「独立の話ですね? ディアナ王妃からマナフォンで聞いております…… 正式な答えはこの祭りや街並みを見てから出すつもりではありますが、個人的には賛成です。何せ此処にはライル君がいますからね。彼が残してくれたオアシスの町と港町を結ぶ転移門は、今も大いに役立ってくれています。インファネースのこれからの発展を見越せば、独立に協力してお互いの関係を強固にする事で、サンドレアは前以上に発展するものと十分に期待出来ると確信しています」
俺を真っ直ぐに見据えて迷いなく発言するユリウス陛下に、国王様は関心を示す。
「ほぅ…… 貴殿にそこまで言わせるとは、彼は私が想像していた以上の人物のようだね」
「いえ、過分な評価に恐縮するばかりで御座います」
本当にユリウス陛下からの過大評価が止まらないね。もしかして、俺が陛下の失った両足を治した事が原因ですか? もうね、教皇様といい王妃様といい、どうして周りの権力者達は俺に対してそんなに期待をしてくるのか……
『諦めろ、それだけの力と結果を示してきたのだ。むしろコイツらはお前を正当に評価をしているに過ぎない』
『ギル様の言う通り、本来ライル様は多くの人々から称賛されていてもおかしくない働きをしています。決して、過大評価なんかではありません』
『王が偉大なのは当たり前であり、何を今更臆する事があるのか…… 俺には分かりかねる。何を言われようとも王らしく堂々としていれば良いかと』
魔力収納にいるギル、アグネーゼ、バルドゥインの言葉に、アルラウネとアラクネ達が然りと頷く。
仲間からの忠誠と信頼が大き過ぎて辛い…… 普通、ここまでヨイショされたら気分も良くなり調子に乗る所だけど、殆どが周りの状況に流され、借り物の力を使った結果なので、どうしても自分の実力だと思えないだよ。そんなのは何の自慢にもならないし自信に繋がる事もない。だからなのか、周りが俺を誉めて持ち上げる度に心が重くなる。
だってそうだろ? ユリウス陛下や国王様、マリアンヌさんにディアナ王妃。領民の為に働く領主と新たなゴーレム理論を世に出し歴史に名を残す偉業をなし得たシャロット。ちょっと周囲を見回せば、己の努力で名声を勝ち取った者や重い覚悟で責務を果たしている人達ばかり。俺よりもずっと立派で偉大や者達が沢山いる中で、調子に乗れる程俺の頭は緩くはないぞ。
そうやって多少気落ちしていると、国王様がユリウス陛下とアリアンヌさんに、この祭りを回るについての危険性を説明していた。
「―― という事情がありまして、もしかしたら魔物による襲撃があるやも知れん。ただ、奴等の狙いは私一人。貴殿が望むならば、私はこの館に籠っているが、如何する? なに、どのみち近い内に退位する予定ではあるので、どんな悪評が立とうと怖くはない。それよりも、貴殿らを下らない争いの巻添えにしたくはないのだ」
「ウェアウルフ、ですか…… マルシアル陛下、失礼を承知で申し上げますが…… あまり私を侮らないで欲しいものですね。王になって体が鈍っているとはいえ、まだまだ衰えてはいませんよ。自分と愛する者一人くらい守れる力はあると自負しております」
国を取り返す為、自らヴァンパイアと戦ってきたユリウス陛下だからこその自信に、国王様はそうであったな…… と軽く謝罪した。
ユリウス陛下だったら、あのウェアウルフと渡り合える実力はありそうだ。