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祭りが開催されて五日目、今日は国王様と王妃様がサンドレアから訪れるユリウス陛下とマリアンヌさんと一緒にお祭りを回る予定だ。
そして畏れ多くも、俺が国王様の護衛という大役を仰せつかったのである。
ウェアウルフにそのお命を狙われている国王様を守るのに、護衛の数を多く揃えるのは目立ちすぎるとの理由により、俺へと話がやって来た。
俺には魔力収納があるので、どんなに人数を増やしたとしても目立たないし、しかもウェアウルフが襲ってきた場合、すぐに国王様達を魔力収納へと匿ってしまえば、奴等の手は絶対に届く事はないだろう。
だけど、不思議なのはどうして王妃様は俺だけに声をかけたのか…… まるで初めから俺の魔力収納を知っていたかのようだった。そうじゃなければ護衛には俺を含めた最低限の数を揃えてくる筈だ。
寝起きのバルドゥインと一悶着あった時、魔力収納から出てくるオルトンやギル、そしてゴーレムに乗ったアンネをエルマンが目撃していた。王妃様直属の諜報員である彼には報告義務があるので、恐らく報告の中にその様な内容の事を伝えたのだろう。
あの王妃様だからね、エルマンの報告だけで俺の魔力収納の存在に気が付いていたのかも…… まぁ予め知っているのなら話は早い。ウェアウルフに襲われている最中に魔力収納へ避難させる為、俺の魔力を受け入れるよう説明しなくても済みそうだ。
「ライル、そろそろ時間よ」
何時ものように朝食を取って、部屋でゴロコロとしているとエレミアが出掛ける時間だと急かしてくる。
「もうそんな時間か…… それじゃアンネ、精霊魔法で領主の館まで送ってもらって良いかな? 」
「う~い、了解! 」
今日は国王様の護衛だからね。魔力収納には空から警戒しているタブリスと堕天使達以外全員揃っている。
アンネの精霊魔法で自分の部屋から領主の館へと向かうと、使用人から中庭に案内された。
「急な話だったのに引き受けて頂き感謝致しますわ。ウェアウルフの実力がどれ程かは存じ上げておりませんが、ライルさんがいてくれるならもう安心ですわね」
「ブフゥ、国王様陛下とディアナ王妃様、そしてこれから来られるサンドレア王とそのお妃様を、どうかよろしくお願いするである」
既に中庭にはシャロットと領主がテーブル席に着いて紅茶を片手に寛いでいた。その少し離れた所では同じ様に紅茶を片手に優雅に過ごす国王様と王妃の姿がある。
俺はシャロットと領主に軽く挨拶を済ませ、国王様の下へ歩き出す。
「おはようございます国王陛下、王妃様。本日は私が護衛を務めさせて頂きますので、どうぞよろしくお願いいたします」
深々と頭を下げては上げると、二人ともにこやかな表情で迎えてくれた。
「無理を言ってしまってすいませんでした。でも、私は貴方が一番適任だと思ったのです」
「私達の我が儘に付き合ってくれて感謝する。君の事は妻からとても頼りになると聞いている。よろしくお願いするよ」
畏れ多い事です―― そう言って俺は再び頭を下げた所に、何故か魔力収納に戻らず付いてきたアンネが前に出る。
「おいっす! お祭りは皆で楽しむものだからね。血生臭いのはお断りよ!! っちゅう事だから、ディアナとその旦那さんはしっかりとあたし達が守ってみせようじゃないのさ。だからディアナ達は今日一日存分に祭りを楽しんでいってね! 」
「フフ、妖精の女王が本気で私達を守ってくれる…… これ以上の安全はないわね」
はぁ、国王様と王妃様が笑ってくれてるから良いけど、言動にはくれぐれも注意してくれよ? アンネが天真万欄なのは今に始まったことではないけど、時と場合を考えてくれると助かるかな。本当に朝から心臓に悪いったらありゃしない。
そのままアンネは王妃様が肩に座って何やら話に花を咲かせている。
「まだサンドレア王は来ないであろうから、ライル君も座ってゆっくりと待とうではないか」
促されるままに国王様の隣へと座る。
「あの…… サンドレア王は海路から来るのですか? ならばお出迎えに港へこれから向かうのでしょうか? 」
つい最近、インファネースとサンドレアの港町間の海路を工事して安全を確保したばかりなので、てっきり船で来るものと思っていたがそうでは無かった。
「いや、私が王都へ帰るのと逆の方法で来る。先ずは予め渡してある転移結晶で第二防壁まで転移し、結界を抜けてから再び転移にてこの中庭に移動する手筈となっている」
あぁ、だから皆して此処にいるのか。天気が良いから庭で日光浴をしている訳ではなかったようだ。諸々の準備は済ませたうえで、こうして紅茶を飲みつつユリウス陛下達のご来訪を待つ余裕な姿に、流石は王だと感心させられてしまう。
それから王妃様とアンネを交えて軽く雑談でもしていると、中庭の丁度中央の空間に穴が空き、そこから一人の男性が現れては周囲を警戒し、俺達を見付けて頭を下げる。
そして穴の横へ待機すると、今度はサンドレア王であるユリウス陛下とマリアンヌさんが出て来たので、俺達も席を立ち迎えに行った。
歩いてくる国王―― いや、俺を見たユリウス陛下とマリアンヌさんの表情が一瞬だけど緩んだのを見逃さなかった。お二人とも元気そうで何よりだよ。