表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腕なしの魔力師  作者: くずカゴ
【第十八幕】公国の悪意と王国の変化
779/812

27

 

 エレミアとレイチェルから屋台で買ってきた貰ったジュースをアランが受け取り、先へ進む。


「ほら、私が持っててあげるから飲んで」


「い、いや、自分で出来るから…… 」


 エレミアが俺の分のジュースを持ち、飲み口を近付けてくる。


「駄目よ、この人混みの中だと魔力で物を浮かすには狭すぎて周りの迷惑になるわ。恥ずかしがらないで」


 そうは言っても…… ね? 妹と弟が見てる前で介護みたいな事をされてたら恥ずかしいに決まっているじゃないか。


 呆れられたかと思って二人を見れば、何故か両者とも羨ましそうな目をしていた。


「おい、そこのエルフ。おれにもこのジュースを飲ませろ」


「え? いやよ。なんで私がそんな事をしなくちゃならないの? 貴方には両手がちゃんとあるんだから、自分で飲めるでしょ? 」


 エレミアに拒絶されたアランはぐぅの音も出ずに悔しげに歯噛みし、その横ではレイチェルがチラチラとエレミアの持つ俺のジュースを見詰めている。


「エレミア…… 一人では大変だから、わたしも手伝うわ…… 」


「ありがとう、でもまだ大丈夫だから」


 明らかにガッカリしたレイチェルが小さく、そう…… と呟き顔を伏せ、再び上げた時には強い意思を感じさせる光が目に灯っていた。


「兄様…… 少し先にたこ焼きの屋台があるわ…… 買ってくるから一緒に食べましょう? 」


 そう言うや否や、俺の返事を待たずにたこ焼きの屋台へ早歩きで向かっていくレイチェルに、アランはやれやれと首を振る。


「前はもう少し利口な奴だった気がしたんだが…… これもお前の影響か? 」


「ははは…… 」


 もう苦笑いしか出ないよ。こんな事ハロトライン伯爵に知られたら今度こそ殺されそうだ。ん? ハロトライン伯爵と言えば……


「そう言えば、アランは此処へ行く事をハロトライン伯爵には伝えてあるのかな? 」


「あぁ、レイチェルと一緒に祭りを回るとは言ってあるぞ」


「レイチェルと? それじゃ、俺の事は? 」


「あの時はレイチェルが誰と待ち合わせしているのか知らなかったから、それ以上の事は何も…… だから嘘は言っていない」


 確かに、レイチェルと祭りを回っている訳だから、嘘にはなっていないな。


「それはレイチェルの提案? 」


「うっ…… そうだが、それがどうかしたのか? それくらいの気転、俺だって出来る」


 エレミアに見透かされ、慌てて言い訳をしてそっぽ向くアランに、俺とエレミアは互いに見合わせ軽く笑う。




 その後、まるで競うようにたこ焼きを食べさせるレイチェルとジュースを飲まそうとするエレミアに挟まれ、その少し後ろでアランに睨まれながら祭りを回る羽目になった。




「不審者、ねぇ? 貴族派の奴等ではないのか? 」


「あぁ、ウェアウルフという魔物で、結界を抜けてしまう程に隠密に優れ、その俊敏さは並み大抵の者では捉える事が出来ない。加えてカーミラによって肉体を改造されているから、全身を黒焦げにしてもすぐに再生してしまう」


 中央広場の休憩所にて、俺は妖精達が見たという不審者についてレイチェルとアランに話した。


「あの時の連中かしら? もしそうなら、今度は逃がさない」


「話を聞くかぎり、前のわたしでは勝てなかったかも…… でも、闇の属性神の加護と訓練を受けた今のわたしなら…… 」


 女性達はやる気十分だね。でも今回は捕まえるのが目的だから、そこんところお願いしますよ。


「とにかく、奴等の狙いを知る為に捕まえたいって事だろ? 祭りを台無しになんてさせたくないし、それらしい奴を見掛けたら取り合えず捕まえてみるか」


 勇者候補のアランならウェアウルフと戦えるだろうけど、周りの被害を考えると余り派手な事はしてほしくない。それは他の人達にも言える事で…… 今回はそこが一番の障害となる。


「どこもかしこも人で溢れているからな。一度戦闘が始まったなら、被害を出さないなんて不可能じゃないか? むしろ向こうが人間を盾にしてくるかも知れないぞ? 」


 アランの言うように、下手に手を出してしまうとそういう危険もある。だから妖精達には見付けても何もせず、そのまま監視を続けるよう頼んである。


「ウェアウルフが複数で侵入しているのなら、必ず何処か人目の少ない場所で集まる時がくるわ…… そこを見計らい一斉に捕らえるのが理想的ね…… 」


「そうだけど、何も俺達が無理に動く必要はないよ。領主様と王妃様には報告してあるし、ギルとバルドゥインも動いてくれているからさ」


 領主と王妃様に報告した段階で、既に巡回している兵士と白百合騎士団にも話は通っている筈。しかも空には堕天使達が常に警戒をしている。ここまですれば、いくらウェアウルフでもそう簡単には逃げられないだろう。


「そう…… バルドゥインが…… それって安心なの…… ? 」


「おい、バルドゥインってあのシュタット王国で暴れてたヴァンパイアじゃないか。本当に大丈夫なんだろうな? 却って心配になるんだが? 」


 シュタット王国での戦で、バルドゥインの戦いをその目で見たレイチェルとアランが顔をしかめる。


「…… たぶん、ね? 」


 ここでハッキリと大丈夫だと言えない所がバルドゥインにはあるんだよなぁ。いや、命令はきちんと守ろうとするから、周囲に被害を及ぼして駄目だという命令も守ってくれると思いたい。


 でも、此方も警戒は怠らず、もしも先にウェアウルフを発見したなら放っておく事は出来ないよね?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ